玉兎ぎょくと)” の例文
行衛をくらましている毒婦、雲月斎玉兎ぎょくと女史とくっ付き合って、目下、銀座のどこかで素晴らしい人肉売買をやっている事を私はチャント知っている。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
銀色の玉兎ぎょくとが雲間に隠顕いんけんして居る光景は爛漫らんまんたる白花びゃくげを下界に散ずるの趣あり、足音はそくそくとして寒気凜然りんぜんはだえに迫るものから、荷持にもちも兵士もふるいながら山を登りますと
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
月は、横浜をってから大きくなるばかりで、その夜はちょうど十六夜いざよいあたりでしたろうか。太平洋上の月の壮大そうだいさは、玉兎ぎょくと、銀波に映じ、といった古風な形容がぴったりするほどです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
ただ見る——白い月の裾野すそのを、銀の奔馬ほんばにむちをあげて、ひとつのくらにのった少年の貴公子きこうしと、覆面ふくめんの美少女は、地上をながるる星とも見え、玉兎ぎょくとが波をけっていくかのようにも見える。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——敵味方のあいだに乱れ入って、敵かかれば引き、敵引けばかかり、さながら波濤をける玉兎ぎょくとにも似たり。——あのまだ若き二人の部将。——忠三郎、見ゆるか、そちにも見ゆるか」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)