無様ぶざま)” の例文
旧字:無樣
絶えまない不吉の稲妻と、襞もない亜麻の敷布が繋がれて、この無様ぶざまな揺籃の底に目覚めてゐるとは誰が知らう。
逸見猶吉詩集 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
彼がこう名乗った時、大気都姫は驚いた眼を挙げて、今更のようにこの無様ぶざまな若者を眺めた。素戔嗚の名は彼女の耳にも、明かに熟しているようであった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一つの思惟像しゆいぞうとして、瞑想めいそうの頬杖をしている手つきが、いかにも無様ぶざまなので、村人たちには怪しい迷信をさえ生じさせていたが、——そのうえ、鼻は欠け落ち
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
野の中にも丘の上にも一物もなく、ただ数歩前に曲がりくねった無様ぶざまな樹木が一本立ってるきりだった。
ああ万事休す矣。また何という深刻な宿命なのだろう。お千と自分との無様ぶざまな色模様を見せたのも宿命なら、いまさらこんなところでミチミに会ったのも宿命だった。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼女は大きな飯の塊を無理に男の口に押し込み、その無様ぶざまに頬張つた口つきを見てあは/\と高く笑ひ乍ら、もう一片の海苔巻きをつまんでその男の掌の上へポイと投げた。
そして彼は、つては無様ぶざまに辷り落ちたあの梯子段はしごだんを、意気揚々ようようくだって行くのであった。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
昔の場末の小屋のショオには大根足の女の子が足をあげて手を上げたり下げたりするだけの無様ぶざまなものであったが、それにくらべると、今のストリップは踊りも体をなしているし
陶工が凡庸であるためにせっかく優良な陶土を使いながらまるで役に立たない無様ぶざまな廃物に等しい代物しろものをこね上げることはかなりにしばしばある。これでは全く素材がかわいそうである。
空想日録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「まあ、何て無様ぶざまな人だらう。お行儀な西洋人に見せたら屹度笑はれてよ。」
クリストフは最初にちらりと見ただけで、醜い無様ぶざまな娘だと判断してしまった。彼女の方では彼にそのような判断は下さなかった。だがむしろそのような判断を下すべき理由は十分あったに違いない。
私は驚きの余り、屋根の上に腹這いになったまま、無様ぶざまな恰好で、永い間じっとしておりましたが、考えて見ますと、さっき河野の飛おりた地響きが、宿の人達に聞えたかも知れません。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
無様ぶざまな恰好で、車の扉によりかかって、引ずられる様に走ったのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)