)” の例文
……行けども行けどもてしのない海難……S・O・Sの無電を打つ理由もない海難……理由のわからない……前代未聞の海難……。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
……(かもめ、鴎、鴎に故郷はない。……おかも自分の故郷ではない、海も自分の故郷ではない。……今日もまた空の下のてない漂泊……)
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
*2 ドエズジャイ・ニェドエジョーシ 『行けども行けどもて知らず』という意味の、変な名前である。
汽車は鉄橋にかかり、常盤橋ときわばしが見えて来た。焼爛やけただれた岸をめぐって、黒焦の巨木は天を引掻ひっかこうとしているし、てしもない燃えがらのかたまり蜿蜒えんえんと起伏している。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
てしも知れない真の闇が、恐怖を知らない私の心を、ようやく乱すように思われて来た。私はどんなに陽の光と、人間の声とに憧れたことか! 私は戦慄を感じながら根強く闇に立っていた。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
杉丸太、竹束、樅板もみいたなぞが、次から次へてしなく並んで、八幡やはたやぶみたように、一旦、迷い込んだら出口がナカナカわからない。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
てなき長広舌の末、この島全体の空気に、何やら相応ふさわしからぬなまめかしい匂いを残して、若後家が階下したの居間に引きさがったのち、はて、今の話の筋道は一体どんなことであったのか
坂の下一面にてしもなく重なり合っている黒い屋根や、明滅する広告電燈や、その上に一パイに散らばっている青白い星の光までもが皆
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
このへん一帯をおおうているてしもない雑木林の間の空地に出てから間もない処に在る小川の暗渠あんきょの上で、ほとんど干上ひあがりかかった鉄気水かなけみずの流れが
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そうして間もなく私の頭の上には朝の清新な太陽に濡れ輝いている夏の大空が、青く青くてしもなく拡がって行った。
怪夢 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ツイ私の背後の鼻の先に、いつの間に立ち現われたものか、何ともいえない奇妙な恰好かっこうをした海藻の森が、てしもない砂丘の起伏を背景にして迫り近付いている。
怪夢 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
これが波かと思う紺青色こんじょういろの大山脈が、海抜五千米突メートルセントエリアス山脈を打ち越す勢いで、青い青い澄み切った空の下をてしもなく重なり合いながら押し寄せて来る。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
見渡す限り草も木も、燃え立つような若緑に蔽われていて、色とりどりの春の花が、巨大な左右の土の斜面の上を、てしもなく群がり輝やき、流れただよい、乱れ咲いていた。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
深緑のカアテンをかけた窓のほかは白い壁にもドアの内側にも一面に鏡が仕掛けてあって、室中へやのものがてしもなく向うまで並び続いているように見える——西洋式の白い浴槽ゆぶね
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
月はてし——も——ヨッコラ波枕ヨオ——いつか又ア——女郎衆のオ——膝枕ア——
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
三角函数が展開されたように……高次方程式のこんが求められた時の複雑な分数式のように……薄黄色い雲の下に神秘的なハレーションを起しつつ、てしもなく輝やき並んでいた。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その以外には何の準備も出来ない囚人服のまま、舞台裏から飛出して来たばかりの、金ピカ洋装の彼女と手に手を取って、てしない原始林の奥を目がけて、盲滅法めくらめっぽうに突進したのですからね。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)