浪花節なにはぶし)” の例文
謡曲うたひが済む頃になると、其家そこせがれが蓄音機を鳴らし出す。それがまた奈良丸の浪花節なにはぶし一式と来てゐるので、とても溜つたものではない。
雨にベタベタに濡れて光る浪花節なにはぶしのポスターが、床屋の表にぶらさがつてゐるが、その横を折れて二軒目がさうである。
釜ヶ崎 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
痰と生薑とに何かの因縁いんねんがあるやうにも思へたがそれがをさない僕には分からない。それから大分だいぶつて僕は東京にのぼるやうになり、好んで浪花節なにはぶしを聞いた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
時々浪花節なにはぶしや、活動写真や、仁和賀にわか芝居の興行をしても、ゴテ/\言はんこと。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
ある唐物屋たうぶつやうちからは、私のきらひなものゝ一つである蓄音機ちくおんき浪花節なにはぶしが、いやに不自然ふしぜんこゑを出して人足ひとあしをとめようとしてゐましたが、たれもちよいとりかへつたまゝでそゝくさ行き過ぎるのが
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
浪花節なにはぶしでもやりさうな咽喉のどであつた。
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
隨分ずゐぶん故郷こきようそらなつかしくなつたこと度々たび/\あつた——むかし友人ともだちことや——品川灣しながはわん朝景色あさげしきや——上野淺草うへのあさくさへん繁華にぎやかまちことや——新橋しんばし停車塲ステーシヨンことや——回向院ゑこうゐん相撲すまふことや——神樂坂かぐらざか縁日えんにちことや——よろづ朝報てうほう佛蘭西フランス小説せうせつことや——錦輝舘きんきくわん政談せいだん演説えんぜつことや——芝居しばゐこと浪花節なにはぶしこと
浪花節なにはぶし、からかひと嬌声けうせい、酒のこぼれ流れてゐる長い木の食卓、奥の料理場から、何々上り! と知らせる声なぞの雑然とした——安酒場の給料日であるが——夜更けて、四辺は静かになり
日本三文オペラ (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)