沸々ふつふつ)” の例文
ほとりの樹木など沢山たくさん枯死こししているのはその熱泥ねつでいを吹き上げたところである。赤い泥の沸々ふつふつと煮え立っている光景は相変らず物すごい。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
彼が生涯を賭して来た事業をおびやかす者が背後に迫ったような不安な気持の中で、彼の事業に対する限りない愛著が沸々ふつふつと湧きいでた。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
灰色の池は全面沸々ふつふつとしてすさまじい音を立てている。一歩踏みあやまれば、全身はただち麋爛びらんし尽くすであろうことを思うと身の毛もよだつ。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
金属Qがはいっているという脳髄は、ビーカーの中で、沸々ふつふつ沸騰ふっとうする茶褐色の薬液やくえきの中で煮られてまっくろにしていく。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
言葉は普通でも内容には沸々ふつふつと熱いものが沸いている。いましめとして永く大事にこの言葉の意味の自戒を保ち合って行こう。
巴里のむす子へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
やがて、二三秒の後、恐ろしい大動乱と大叫喚が、ハチ切れそうになった場内の群集を、沸々ふつふつと煮えくり返させました。
悪魔の顔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
貴女あなたは約束と違うじゃありませんか。なぜ、美奈子さんをお連れになるのです。』それが、青年の心に、沸々ふつふつき立っている云い分であった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
事実彼等は、胸から腹から、沸々ふつふつと血を吹き出しながら、その音楽に調子を合せて、ピョコンピョコンと、苦しまぎれの化猫踊りを踊ったのである。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼はデッキチェアーにもたれて、沸々ふつふつとたぎるソーダ水のストローをくわえたまま、眼は華やかな海岸に奪われていた。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
熱狂を以て打込んだ釘のあとを、冷笑を以て見ていると、人形の四肢五体から沸々ふつふつと血が吹き出して来る。藁の人形そのものが、のたうち廻って苦しむ。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
耳は、松風やとりに洗われていても、頭は、洲股すのまたへ駈け、小牧山へ通い、血は風雲に沸々ふつふつと騒いでいる。まったくここの「じゃく」と彼とは、べつ物であった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「書を読て、心緒忽然こつぜんとして古人に触れ、静夜月を仰ぎて、感慨湧然として古人に及ぶ。同情の念沸々ふつふつとして起る。是等を観察し、彼を沈思す。大抵誤まらざるを得。」
大久保湖州 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
けれど当時のわたしは、そんなものは何一つわかりもせず、また、自分の中に沸々ふつふつとたぎっているすべてのもののうち、どの一つだって、それと名ざすだけの力はなかったろう。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
も幾年の学びたる力一杯鍛いたる腕一杯の経験修錬しゅれんうずまき起って沸々ふつふつと、今拳頭けんとうほとばしり、うむつかれも忘れ果て、心はさえさえ渡る不乱不動の精進波羅密しょうじんはらみつ、骨をも休めず筋をも緩めず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
火鉢にはカンカン火がおこっていたし、鉄瓶の湯は沸々ふつふつたぎっていたのだが、何とはなく、私はこの、僅か二三カ月見なかった友の様子から、一種違った、妙な弱々よわよわしさと云ったものを感じた。
自殺を買う話 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
それにもイダルゴは一々答えて、何度も何度も舞台へ現れて接吻キスを投げた。微笑を送った。そして、そのあいだ中イダルゴの全身には、瀕死の恋人を思う涙血が沸々ふつふつと煮え立っていたのである。
内の燈火あかしは常よりあざやかあるじが晩酌の喫台ちやぶだいを照し、火鉢ひばちけたるなべの物は沸々ふつふつくんじて、はや一銚子ひとちようしへたるに、いまだ狂女の音容おとづれはあらず。お峯はなかば危みつつも幾分の安堵あんどの思をもてあそび喜ぶ風情ふぜいにて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
炉のほとりには谷川の水が沸々ふつふつ煮えていて、そのお茶をいただいたときは、あれほど結構なお茶をんだことが無いと思ったほどでございます。榾柴ほだしばで焚いたお湯ほどおいしいものはございません。
あじゃり (新字新仮名) / 室生犀星(著)
かき舟の一番奥の座敷で、鍋の中にかしわが沸々ふつふつとたぎり、既に盃も相当に右往左往したあとで、誰も赤い顔をして、声も大きくなって居た。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
とすれば、おまえの血と汗のこもった言葉だ。言葉は普通でも内容には沸々ふつふつと熱いものがいている。いましめとして永く大事にこの言葉の意味の自戒じかいち合って行こう。
巴里のむす子へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
青い液体が、ドクドクと白紙の上に流れ出した。怪漢は、ひどく狼狽ろうばいして、壜を指先に摘むと、起した。白紙の上には、青い液体が拡がって、沸々ふつふつと白い泡を立てていた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼は、そこに二三分間待ったが、心の底から沸々ふつふつき上っている感情の嵐は、彼を一分もじっとさせていなかった。電車を待っているような心の落着は、少しもなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
豆は、何をうらめばいいのか。——沸々ふつふつたる熱湯の中の悲泣ひきゅうは、たれが聞いてくれるのか。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ともすれば、彼の目の前に浮んで来るのは、暗闇の洞窟の中で、沸々ふつふつと泡立ち煮える毒薬の鍋を見つめて、ニタリニタリと笑っている、あのいにしえの物語の、恐ろしい妖婆の姿でした。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
不思議な空気の中に、千代之助の冒涜的な熱情は、沸々ふつふつとたぎり返します。
百唇の譜 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
見えなくなるまで見送り、彦太郎はやっと我に返り、これはいったい何事だろうと小首を傾け、沸々ふつふつと釜のふいている音を聞いて立ち上った。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
彼の胸の中は、今や沸々ふつふつ沸騰ふっとうを始めた。しかし帆村はそんなことを知らない。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
八五郎の血は沸々ふつふつと高鳴ります。