歔欷すすりな)” の例文
そして、ジャズの音が激しく、光芒のなかで、歔欷すすりなくように、或は、猥雑わいざつ顫律せんりつただよわせて、色欲のテープを、女郎じょろうぐものように吐き出した。
わたしの心はひややかであった。何の感動もない数分間が過ぎた、そして、わたしは唯、母の歔欷すすりなく声を聞いただけであった。
三等郵便局 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
『怎したけな?』と囁いてみたが返事がなくて一層歔欷すすりなく。と、平常ひごろから此女のおとなしく優しかつたのが、俄かに可憐いぢらしくなつて来て、丑之助はまた
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
すると水江は不意に激しく歔欷すすりなきをし始め、藁の上に横倒しになつて顔を伏せ、肩を顫はせるのであつた。
青い焔 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
けれども、あの肌寒い春さきの風が、思わず障子を閉めさせる時、本当に歔欷すすりないているのではないかと思われるほど、かすかにふるえながらかなしい表情をしています。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
歔欷すすりなけかし、日の光。
緑の種子 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そんな風に云っているのが、歔欷すすりなくような声に混って、断片的に洩れて来るのであった。そして、西谷は、極端にその人形を懐かしみ、滅茶苦茶に愛撫しているようであった。
暫しは女の歔欷すすりなく声のみ聞えてゐたが、丑之助は、其漸く間断々々とぎれとぎれになるのを待つて
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
独逸ドイツ製のサイコロを買うと、そもまま歔欷すすりなくように円筒状の夜の大阪を感じていた。
大阪万華鏡 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
小便を催しているが、朝まで辛棒しようと思った。とどこからか歔欷すすりなきが聞こえて来るので、おやと耳を澄ませると、時に高まり、時に低まりして、袋の中からでも聞こえて来るような声で断続した。
いのちの初夜 (新字新仮名) / 北条民雄(著)
歔欷すすりなけかし、日の光。
緑の種子 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
美津子はそうないように叫びながら、布団ふとんに顔を押し当てて、静かに歔欷すすりないた。
栗の花の咲くころ (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)