構内かまえうち)” の例文
同じ後藤三右衛門の別荘の構内かまえうち、特に造らせた離屋の一室に、鳥居甲斐守と芸者お豊は、人交えもせずに相対して居りました。
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
今では同じ構内かまえうちにはなって居るが、古井戸のある一隅いちぐうは、住宅の築かれた地所からは一段坂地さかちで低くなり、家人かじんからは全く忘れられた崖下の空地である。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
私の父は晩年を佃島つくだじまの、相生橋畔あいおいばしのほとりに小松を多く植えて隠遁いんとんした。湯川氏夫妻もおなじ構内かまえうちに引取られた。
前の本多さんと云うのは、やはり同じ構内かまえうちに住んで、同じ坂井の貸家を借りている隠居夫婦であった。小女こおんなを一人使って、朝から晩までことりと音もしないように静かな生計くらしを立てていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
構内かまえうちの長屋の前へ、通勤つとめに出る外、余り着て来た事の無い、珍らしい背広の扮装いでたち、何だか衣兜かくしを膨らまして、その上暑中でも持ったのを見懸けぬ、蝙蝠傘こうもりがささえ携えて、早瀬が前後あとさきみまわしながら
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ああいう不孝のあとなので、構内かまえうちへ入りこむことはできない。
西林図 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そう思うほどこの閑地は広々としているのである。私たちはやむをえず閑地の一角に恩賜おんし財団済生会さいせいかいとやらいう札を下げた門口もんぐちを見付けて、用事あり気に其処そこから構内かまえうちへ這入って見た。