敷蒲団しきぶとん)” の例文
妻は下の男の子を背負い、共に敷蒲団しきぶとん一枚ずつかかえて走った。途中二、三度、路傍のどぶに退避し、十ちょうほど行ってやっと田圃に出た。
薄明 (新字新仮名) / 太宰治(著)
しきいで仕切られているだけで、かつてふすまの立てられたことのない自分の居間で、短い敷蒲団しきぶとんに足を縮めて横になって目を閉じた。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
人と面会するにも人によりて好きと嫌ひとの甚だしくある事、時によりて愉快を感ずると感ぜざるとの甚だしくある事、敷蒲団しきぶとん堅ければ骨ざはり痛く
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
途端に人膚ひとはだ気勢けはいがしたので、咽喉のどかまれたらうと思つたが、うではなく、蝋燭が、敷蒲団しきぶとんの端と端、お辻と並んで合せ目の、たたみの上に置いてあつた。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この亭主は敷蒲団しきぶとんを上へ掛けて寝る流儀と見える。長蔵さんが、このもじゃもじゃの頭に話しかけると、頭は、むくりと畳を離れた。そうして熊さんの顔が出た。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その夜東京の宿屋で寝たら敷蒲団しきぶとんが妙に硬くて、まるで張り板の上にでも寝かされるような気がした。便所へ行くとそれが甚だしく不潔で顔中の神経を刺戟された。
電車と風呂 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ソレカラ私は誰にも相談せずに、毎晩掻巻かいまき一枚いちまい敷蒲団しきぶとんも敷かず畳の上に寝ることを始めた。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いかに身を悶悩さして、敷蒲団しきぶとん擦付こすりつけても、少しも思うように痒さは癒えぬのであった。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「あれ、」とばかりで、考えたが、そッと襟を取って、恐々こわごわ掻巻を上げて見ると、牡丹ぼたんのように裏が返った、敷蒲団しきぶとんとの間には、紙一枚も無いのである。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
使ってるものには立派過ぎた夜具、敷蒲団しきぶとん、畳んだまますそへふっかりと一つ、それへ乗せました枕は、病人が始終黒髪を取乱しているのでありましょう、夜のものの清らかなるには似ず垢附あかつきまして
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
敷蒲団しきぶとんの綿も暖かに、くまの皮の見事なのが敷いてあるは。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……それなりに敷蒲団しきぶとんの裾へ置いて来たそうですが。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)