拮抗きっこう)” の例文
幾世紀をも通り越す人々、死よりもさらに強い人々は、ただ不幸のうちにおいてのみ知らるる。不幸に拮抗きっこうし得る者はきわめて少ない。
これに美濃、伊勢の信孝、一益の国力を加え、ようやく、ほぼ敵と拮抗きっこうし得る六万二千人の兵力を持ちうることになるのだった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実際同じ会場に懸かっている大小さまざまな画の中で、この一枚に拮抗きっこうし得るほど力強い画は、どこにも見出す事が出来なかったのである。
沼地 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
茶漬けの中でも、もっとも美味うまいもののひとつに、はもの茶漬けがある。これは刺身さしみでやるたい茶漬けと拮抗きっこうする美味さだ。
鱧・穴子・鰻の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
明治年代、西洋人情噺を以而もって、よく大円朝えんちょう、初代燕枝えんし拮抗きっこうしたる存在に、英国人の落語家快楽亭ブラックがあった。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
またどんな下等な者でもこの公徳を重んぜぬ者はない。悲しいかな、我が日本にっては、だこの点において外国と拮抗きっこうする事が出来んのである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
会津中将松平容保が薩長の執拗しつような江戸追討を憤って、単身あくまでもその暴虐横暴に拮抗きっこうすべく、孤城若松に立て籠ってから丁度ちょうど六日目のことだった。
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
今これを春信について見るに春信は宝暦年代にありては鳥居清満とりいきよみつ拮抗きっこうし、明和に入りて嶄然ざんぜんとして頭角を現はすや、当時の浮世絵はことごとく春信風となれり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
拮抗きっこうを研究することによって憤怒を解くことが、その目的であり、またその結果であらねばならない。それは調査し穿鑿せんさくし解剖し、次にまた再び組み立てる。
明治時代には「紅露」といわれて、紅葉と露伴とが二大作家として拮抗きっこうしていたが、師匠思いの鏡花は、そんな関係から露伴には妙な敵意を感じていたらしい。
文壇昔ばなし (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
が、この勢力は他の文人が各々孤立していたと反して団体的に築き上げたのだから、これと拮抗きっこうする他の団体が生ずれば自然に気勢をがれるのは当然であった。
一日も早く西洋の科学を消化して列国に拮抗きっこうしなければ、支那もまた、いたずらに老大国の自讃に酔いながら、みるみるお隣りの印度インドの運命を追うばかりであろう。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ないしはあらゆる改革に対して不安を抱こうとする階級の批判に拮抗きっこうして、はたしてどの程度にまで現代日本の文化を価値づけることができるかという問題である。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
後に、玉井金五郎と生涯の盟友となって、吉田磯吉一派と拮抗きっこうした井上安五郎の、まだ若い胸の中に、このとき、なにかのはげしいものが、燃えあがったようであった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
男の作家たちに拮抗きっこうしてゆこうなどとはつゆ思わないけれども、せめて、もう一段背のびをしてみたいと思っている。——室生むろうさんのこの頃のお仕事のたくましいのにおどろいている。
生活 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
ましてそれらに拮抗きっこうし得る力と深さとにちるものはまれだといわねばならぬ。偉大である支那の前に、優雅である朝鮮の前に、私たちは私たちの藝術を無遠慮に出すことが出来ぬ。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
新しい時代の潮流にさおを入れようとするものと古い塔をまもりぬこうとするものと、この二つはいま日本じゅう到るところで拮抗きっこうしている、水戸だってその例から洩れはしないのだ
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
たとい他人の思想を受け容れたものでも第二の個性に由って着色され変形されないものはないのですから、万人万様の思想が存在するのは当然の事で、それらの思想が拮抗きっこうし、比較し、補正し
激動の中を行く (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
以て男子に拮抗きっこうせしめんとするの考案なきにあらず。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そして一日でも一時間でも早く、わがアメリカの軍需生産量に拮抗きっこうしようとしているのです。日本の全国工場化の猛進ぶりは実に恐るべきものがあります。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
もしこの親方の人格が強烈で四辺しへんの風光と拮抗きっこうするほどの影響を余の頭脳に与えたならば、余は両者の間に立ってすこぶる円枘方鑿えんぜいほうさくの感に打たれただろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いま曹操の実力と拮抗きっこうし得る国はわが河北か貴国の呉しかありません。その両家がまた相結んで南北から呼応し、彼の腹背を攻めれば、曹操がいかに中原ちゅうげん
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「市井的で商人的で平和的でイギリス的な」社会主義を唾棄だきして、世界は「拮抗きっこうをもって法則とし、」犠牲に、たえず繰り返される常住の犠牲に生きてるという
文字の新威力に拮抗きっこうして、いかに忠実にその本文を尽くし、むしろおうおうにして彼にあっては不可能なりしものを、いかにたやすくなしとげていたかを考えるために
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
杉浦と拮抗きっこうして大いに雄飛しようとし、あたかも哈爾賓ハルビンに手を伸ばして新たに支店を開こうとする際であったから、どういう方面に二葉亭の力を煩わすつもりがあったか知らぬが
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)