抜錨ばつびょう)” の例文
旧字:拔錨
抜錨ばつびょう後二時間にして、船は魚津に着きぬ。こは富山県の良港にて、運輸の要地なれば、観音丸かんのんまるは貨物を積まむために立寄りたるなり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
抜錨ばつびょうの時刻は一秒一秒にせまっていた。物笑いのまとになっている、そう思うと葉子の心はいとしさから激しいいとわしさに変わって行った。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
流汗をふるいつつ華氏九十九度の香港ほんこんより申し上げそろ佐世保させほ抜錨ばつびょうまでは先便すでに申し上げ置きたる通りに有之これあり候。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「こういうんだ“親愛ナル竹ヨ。俺ハ復讐ヲスルンダ。コノ手紙ヲ見タラ、オ前ノ船ハスグニ抜錨ばつびょうシテ、港外へ出ロ。ハルク”どういう意味だろうか、この手紙は」
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
暫らくして再び神戸を抜錨ばつびょうした諾威ノルウェー船ヴィクトル・カレニナ号が大洋へ乗出すと間もなく、帆布に包まれて火棒デレキ圧石おもしに付けた大きな物が舷側サイドから逆巻く怒涛の中へ投込まれた。
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
船はその晩サンフランシスコを抜錨ばつびょうした。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
始めての旅客も物慣れた旅客も、抜錨ばつびょうしたばかりの船の甲板に立っては、落ち付いた心でいる事ができないようだった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そして三時間後には愴惶そうこうとして抜錨ばつびょうし北極海へ取って返した。どうだ、面白い話ではないか
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
「今日の火曜日と——木曜日の真夜中に、コロナ号がバルセロナを抜錨ばつびょうする。サンナザアルへ入港はいるのが来週の水曜日と見て、そうですね、金曜日にはまちがいなく届くでしょう。」
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
そんなあわただしい抜錨ばつびょうの間ぎわになった。葉子の前にも、急にいろいろな人が寄り集まって来て、思い思いに別れの言葉を残して船を降り始めた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)