御霊廟みたまや)” の例文
「秋は鮮紅なお山の風情が得もいわれぬ美観でございますが、冬は、御霊廟みたまやの玉垣が神々しいばかりで、楓樹ふうじゅこずえには一葉もござりませぬ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
太子の御霊廟みたまやにちかい一方の古壁に何やら無数の蜘蛛くものようにうごめいているものをみいだしてひとみを吸いつけられていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
起って、歩を移すと、そこから遠からずして祖廟そびょうのまえに出る。ここは信長が居城してから造った先祖の御霊廟みたまやである。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山清水の溜井たまりい垢離こりをとって、白い下着に、墨の法衣ころもをつけ、綽空は、叡福寺のくりやから紙燈芯かみとうしんを一つもらって、奥の御霊廟みたまやへ一人すすんで行った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一方の法月弦之丞は、御霊廟みたまやのわきの築土ついじをヒラリと越えて、もうとっくに、芝の山内を駈け抜けていたのである。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
太子の御聖業は、いつも、彼の若いこころをむち打つ励みであった。初めて、その御真筆に接した時、範宴は、河内かわち御霊廟みたまやの白い冬の夜を思いだした。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
唖はしばらく、四方を眺め廻して考えていたが、やがて黙々と、御霊廟みたまやのうしろの方へ向って歩き出した。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「この山には、後漢の光武帝の御霊廟みたまやがあるとか、かねて聞いていたが、今でもその廟はあるのかね」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
当御代とうごだいには、まだ、さきに挙げたような罪科はございませぬ。いて、刑を明らかにと申せば、恐れながら、それは御霊廟みたまやの地下に及ばねば相成らぬことになります。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人は、草の中で、黙笑を見合ったが、すぐに飛び出すわけにも行かないので、跫音あしおとをやりすごしていると、また一つ、御霊廟みたまやのうしろの方から黒い人影が来るのを見た。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)