御贔負ごひいき)” の例文
「そんな関係から、段々将校方の御世話になるようになりまして。その内でも柴野しばのの旦那には特別御贔負ごひいきになったものですから」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
投げ入れし一しなれにも笑つて告げざりしが好みの明烏あけがらすさらりと唄はせて、又御贔負ごひいきをの嬌音きやうおんこれたやすくは買ひがたし
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
角力は御贔負ごひいきさきがペシャンコになってしまっても捨てず、だんだん微禄びろくはしたが至極平和にくらした。
そののち不図ふと御贔負ごひいきこうむ三井養之助みついようのすけさんにお話すると、や、それはいけない、幽霊のいんに対しては、相手はようのものでなくてはいけない、夜の海はいんのものだから
薄どろどろ (新字新仮名) / 尾上梅幸(著)
そして自分は実際にお客様方の御贔負ごひいきについはめられて、それに自分もついはまりこみ、とうとう二進にっち三進さっちも動けない今の身分になってるのだとひそかに洒落れてみた。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
光代は向き直りて、父様はなぜそう奥村さんを御贔負ごひいきになさるの。と不平らしく顔を見る。なぜとはどういう心だ。めていいから誉めるのではないか。と父親てておやは煙草をはたく。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
課長殿は「見所のある奴じゃ」ト御意遊ばして御贔負ごひいきに遊ばすが、同僚の者は善く言わぬ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
こうしてつたない琵琶を弾いて歩きますと、人様が御贔負ごひいきをして下すって、自分の暮らしには余るほどのお金が手に入るもんですから、それをみんな善いことに使ってしまいたいと
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この辺でごらんなさいまし。三崎座の女役者を、御贔負ごひいきは、皆呼びずてでございます。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あたしたちは長いこと御贔負ごひいきになって来たし、この頃ではもうお世話になるのがあたりまえみたいになっているもんでね、——そういえば松吉さんだって、あんなによく面倒みてあげていながら
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
満月ことを左程御贔負ごひいき思召おぼしめし賜わりまするならば、せめて寮へ下げて養生致させまする御薬代なりと賜わりましたならば、当人の身に取り、私どもに取りまして何よりの仕合わせに御座りまする。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
御前の御贔負ごひいきに甘えまして一寸ちよつと狂言を仕組んで見たので御座いますよ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
また御贔負ごひいきをの嬌音きやうおんこれたやすくはひがたし、れが子供こども處業しわざかと寄集よりあつまりしひとしたいて太夫たゆうよりは美登利みどりかほながめぬ、伊達だてにはとほるほどの藝人げいにん此處こゝにせきめて、三味さみふゑ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「伊賀屋や八百久はながいお出入りだそうだが、私は御贔負ごひいきになって幾年にもならねえ、だからはっきり云いますが、今日持って来た米が最後で、これからは御免をこうむりますからそう思って下さい」
あだこ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)