廓内くるわうち)” の例文
そうした舞妓時代を経ないものは、祇園の廓内くるわうちでも好い位置を保てないのが不文の規則なのだ。出入りのお茶やにも格があったのだ。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
まことにお恥かしいことでございますが、その頃わたくしの家は吉原の廓内くるわうちにありまして、引手ひきて茶屋を商売にいたしておりました。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私の申すことが、少しなりともお分りになりましたら、あのその筋道の分らない二三の丸、本丸、太閤丸たいこうまる廓内くるわうち、御家中の世間へなど、もうお帰りなさいますな。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
異国に対して厳酷であると共に臆病であつた幕府は当時長崎在留の異国人の住居を出島の廓内くるわうちに禁制すると共に、一方丸山の遊女を毎夜そこにつかはし、はべらしめて
それと共にときの声を上げて一隊の歩兵が——どこに隠れていたものか知らん、刀を抜いて群衆の後ろから無二無三にきり込んで来たので、吉原の廓内くるわうちが戦場になりました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
広々した廓内くるわうちはシンとしていた。じめじめした汐風しおかぜに、尺八のふるえが夢のように通って来て、両側の柳や桜の下の暗い蔭から、行燈あんどんの出た低い軒のなかに人の動いているさまが見透みすかされた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
殿樣はその花魁一點張り、また女の方でも殿さま一點張り、ほかの客は振向いても見ないといふ逆上方のぼせかたで、廓内くるわうちでは大評判でございます。
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
ひっくるめてや、こっちも一挺なくなって、廓内くるわうちじゃあきっと何楼どこかで一挺だけ多くなる勘定だね。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一体十九日の紛失一件は、どうもくるわにこだわってるにちげえねえ。たたるのは妓衆こどもしなんだからね、少姐ねえさんなんざ、遊女おいらんじゃあなし、しかも廓内くるわうちに居るんじゃあねえから構うめえと思ってよ。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)