幽邃いうすゐ)” の例文
空色の單衣に青磁色の帶は、紫陽花あぢさゐのやうな幽邃いうすゐな調子があつて、意氣好みのお秀が好きで/\たまらない取合せだつたのです。
いかに幽邃いうすゐ深遠の趣きを加へたかといふことを考へると、人間の世界には、烏合の群集ばかりでは足りない、寶玉の如き一人者がなければならぬ。
伊賀国 (旧字旧仮名) / 近松秋江(著)
幽邃いうすゐなる寺院の境内より漏れ聞ゆる僧侶が讀經の聲と梵鐘の響とは古雅なる堂塔の建築と相俟つてこゝに森玄なる宗教藝術の美がつくり出される。
十年振:一名京都紀行 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
古びて歪んでは居るが、座敷なんぞは流石に悪くないから、そこへ陣取つて、毎日風呂を立てさせて遊んで居たら妙だらう。景色もこれといふ事は無いが、幽邃いうすゐで中〻佳いところだ。
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
秘奥の潜むところ、幽邃いうすゐなる道眼の観識を待ちて無言の冥契を以て、或は看破し得るところもあるべし、れども我は信ぜず、何者といへどもこの「秘奥」の淵に臨みて其至奥に沈める宝珠を探り得んとは。
心機妙変を論ず (新字旧仮名) / 北村透谷(著)