市兵衛町いちべえちょう)” の例文
六六館に開かるる婦人慈善会に臨まんとして、在原伯ありわらはくの夫人貞子ていこかたは、麻布あざぶ市兵衛町いちべえちょうやかたを二頭立の馬車にて乗出のりいだせり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
市兵衛町いちべえちょうの通りには元南部侯の屋敷の塀に沿うて桜の大木が半町ほどもつづいて立っている。桜と榎とは霜を待たず秋となれば直様すぐさま落葉する事他の木よりも早い。
写況雑記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ふたりは、肩をならべて、我善坊がぜんぼうくぼから市兵衛町いちべえちょうへ出て、だらだらと霊南坂を降りて来た。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
市兵衛町いちべえちょうの火事に全焼まるやけと成りまして、たちまちの間に土蔵を落す、災難がある、引続き商法上では損ばかり致して忽ち微禄して、只今の商人方あきんどがたちがって其の頃は落るも早く、借財もかさ
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
最初、時事新報の紙上に出ていた売宅の広告を見て、道を人に問いながら飯倉八幡宮の裏手から我善坊ヶ谷がぜんぼうがたに小径こみちを歩み、崖道を上って市兵衛町いちべえちょうとおりへ出たのである。
枇杷の花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)