寡黙かもく)” の例文
十九の年のあやまちも、六年前の夢となって、お市は今なお水々しい二十五の御新造ごしんぞぶり、良人の曾我部兵庫は、四十近い寡黙かもくな侍であった。
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
オフシェンコは、真面目そうな、寡黙かもくな男だ。しかし、その日はめずらしく口数が多く、折竹になにかと話しかけてくる。
人外魔境:10 地軸二万哩 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
子供の頃はせて弱そうな子であった判事が、今では身体の丈夫な、しかし、非常に寡黙かもくな、むしろ陰鬱いんうつに近い性格の人であるということなぞもその一つでした。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
バルテルミーは、やせた、虚弱な、色の青い、寡黙かもくな男で、一種の悲壮な浮浪少年であった。
その寡黙かもくは相手を見下げているのでもなく、つまらないのを我慢しているのでもない。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「そうだ、あの寡黙かもくな仙人のことだ。彼は見かけによらず、よく物を見通しているよ」
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
そうした意味から見ると、彼女はありふれたしっかりもののいきはるかに通り越していた。あの落ちつき、あの品位、あの寡黙かもく、誰が評しても彼女はしっかりし過ぎたものに違いなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、東海さんが、「Gさんも、ああ言うんだし、皆でよく今後を打合せたらどうだい」と横目でぼくを見ながらいう。日頃、寡黙かもくなKOの主将、八郎さんまで、「よかろう」と積極的にくちばしをだします。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
勝家の口数にたいしてもおそるるかのように寡黙かもくであった。——が、勝家の執拗しつような言に、今はぜひなくというような容子で
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寡黙かもくな、芸の引き立たないこの男は、容貌にも特徴がなく、いつも髪の毛に埃っぽい匂いがする——とまあそういったような、何から何まで役者らしくない男だった。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ただその持前を余り出しすぎると、饒舌家にょうぜつかといわれたり、法螺ほらふきと思われたり、またか、と人にいとわれたりするので、平常は慎んで、なるべく寡黙かもくを守っているのであった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
敵に向っては鬼神の如き武蔵も、平常は至って寡黙かもくで、静かに低声に話したのであろう。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なにしろ、事が事だけに、それについては、一切寡黙かもくな主従であった。触れるのも、恐ろしく、ただ暗黙のうちに、右馬介は右馬介ひとりの胸で、将来を計り、現在を見まわしていた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この間うちから、常に寡黙かもく沈鬱ちんうつにみえていた法月弦之丞は、その時、まるで人が違ったように、そういうや否や、血相すごく身仕度して、阿波侍の一行を追うべく宙を飛んで走りだした。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど平常が寡黙かもく生真面目きまじめなほうだから、だれもそれを怪しまなかった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、寡黙かもくである。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)