嫣然にっこり)” の例文
と云って鈴の様な目を見はり、それから、くすぐったい様な表情で、唇を何とも云えぬ愛らしい恰好に曲げて、嫣然にっこりと微笑するのが癖であった。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
歌ちゃんまだ着更ないの、でもすぐ行く待てと云うのだものと嫣然にっこり笑えば、そう、ひどく酔されちゃったと今来たのもまた嫣然笑ってようやく坐った。
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
と腹這になれば、花里は煙草をつけて煙管きせるを我手で持ったまゝ一吸ひとすいすわした跡を、その儘自身ですい、嫣然にっこりいたし
と言って、そっと扉をあけたお君は、椅子にってスヤスヤと眠っている能登守の姿を見て、嫣然にっこりとして、音を立てないようにその傍へ近づいて行きました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「でも、貴君あなたなんか、そうした女性は、お好きじゃありませんでしょうね。」そう、信一郎の耳に、あたゝかくささやいて置きながら、夫人は顔を少し離して嫣然にっこりと笑って見せた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あわれむべし文三はついに世にもおそろしい悪棍わるものと成り切ッた所へ、お勢は手に一部の女学雑誌を把持ち、たちながら読み読み坐舗ざしきへ這入て来て、チョイト昇に一礼したのみで嫣然にっこりともせず
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
尤も此の美人は背の高さが僅かに二尺位だから本統の美人で無く、幻燈の影であるに極って居る、所が篤と見て居る中に其の影が段々大きくなり、遂に本統の美人と為って、嫣然にっこりと一笑したが
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
庸三が言うと、彼女は嫣然にっこりして
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
平常ふだんならそれなりに嫣然にっこりして他愛なくなるんですが、此の頃は優しくされるにつけて一層悲しさが増してまいり、溜息ついて苦労するのが伊之吉の身にも犇々ひし/\こたえます。
そう云いながら、瑠璃子は嫣然にっこりと笑った。勝平は、妖術ようじゅつにでもかゝったように、ぼんやりと相手の美しい唇を見詰めていた。瑠璃子は相手を人とも思わないように傍若無人ぼうじゃくぶじんだった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
仰向いて見る天井に小歌が嫣然にっこり笑って居るので、これではならぬと右へ寝返れば障子にも小歌、左へ寝返れば紙門からかみにも小歌、鴨居にも敷居にも壁にも畳にも水車の裾模様が附いて居るので
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
お勢の事は思出したばかりで心にも止めず忘れるともなく忘れていたが、今突然可愛らしい眼と眼を看合わせ、しおらしい口元で嫣然にっこり笑われて見ると……淡雪あわゆきの日の眼にッて解けるが如く
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
と言って、女が嫣然にっこり笑って、兵馬の膝をグリグリと突きました。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と言さしてあとはいわず、嫣然にっこり笑いました花里の素振は何うも不思議でございます。
呆気あっけに取られている勝平を、嫣然にっこりと振り向きながら、瑠璃子は云った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
襖越しに突立ったままで、嫣然にっこりとして
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)