好尚このみ)” の例文
繁々しげしげとその喫茶店の土壇に坐るようになったのは、その店が学校の通路にあったという都合ばかりではなく、「墓地展望亭」というその名の好尚このみの中に、なんとなく
墓地展望亭 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
けれども時節柄じせつがら頓着とんじゃくなく、当人の好尚このみを示したこの一色ひといろが、敬太郎には何よりも際立きわだって見えた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
椅子テーブルの如き家具類にしても相当に心を払い、クロース、食器、掛紙、紙袋等、何かしら私たちの気持を含ませ、自ずとそこには一つの好尚このみが現れている筈です。
土を積んで、石に代えた垣、此頃言い出した築土垣つきひじがきというのは、此だな、と思って、じっと目をつけて居た。見る見る、そうした新しい好尚このみのおもしろさが、家持の心を奪うてしまった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
それでは、わしが伸子に愛を求めたのを発見されたために、持分を失うまいとして、グレーテさんを殺したのだ——と。莫迦ばかな、それは貴方あんたの自分勝手な好尚このみだ。貴方は、歪んだ空想のために、常軌を
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それにしても、緋色繻珍の褥の上におさまって、横柄な声で、おいおい、というと、酒肴の好尚このみは望みのまま、打てば響くといった工合に、なんなりと御下命に応ずるというのは、おもしろい。
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
見る/\、さうした新しい好尚このみのおもしろさが、家持の心を奪つた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)