女雛めびな)” の例文
小学校へ通う大川の橋一つ越えた町の中に、古道具屋が一軒、店に大形の女雛めびなばかりが一体あった。﨟長ろうたけた美しさは註するに及ぶまい。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
幸子は内裏雛だいりびな女雛めびなの頭へ瓔珞ようらくの附いた金冠を着せながら、悦子の甲高い声がひびいて来るのを聞いていたが
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
女雛めびなのみ台さまを残しておいて、娘の春菜は男雛を、せがれの六郎次はまた女雛を、それぞれいとしい思い人思い雛に愛し祭りながら、この年までの十二とせ十二春
まあ、申さば、内裏雛だいりびな女雛めびなの冠の瓔珞やうらくにも珊瑚さんごがはひつて居りますとか、男雛をびな塩瀬しほぜ石帯せきたいにも定紋ぢやうもんと替へ紋とが互違ひにひになつて居りますとか、さう云ふ雛だつたのでございます。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
小宮山は所在無さ、やがて横になってふすまを肩に掛けましたが、お雪を見れば小さやかにふっかりとして、女雛めびなを綿に包んだようでありまする。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
男雛おびなばかりか、女雛めびなもそろっているうえに、そのまた男雛が、名人のこわきにしてきた問題のまがい雛と、形も同じ、塗りも同じ、着付けの京金襴きんらんの色までがまったく同様同形同色でしたから
覚束おぼつかない行燈の光の中に、象牙のしやくをかまへた男雛をびなを、冠の瓔珞やうらくを垂れた女雛めびなを、右近のたちばなを、左近の桜を、の長い日傘をかついだ仕丁しちやうを、眼八分に高坏たかつきを捧げた官女を、小さい蒔絵まきゑの鏡台や箪笥を
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
見る見るうちに数がえて、交って、花車を巻き込むようになると、うっとりなすった時、緑、白妙しろたえ紺青こんじょうの、珠を飾った、女雛めびなかぶる冠を守護として、はかま練衣ねりぎぬの官女が五人
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「この位なおぜんがありましょう、男雛おびなのと女雛めびなのと一対、そら、あの、」
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)