大権現だいごんげん)” の例文
旧字:大權現
しかるにいつのころよりか二処の信仰は分立して、三尺坊大権現だいごんげんの管轄は、ついに広大なる奥山には及ばなかったのである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
峠のものは熊野くまの大権現だいごんげんに、荒町のものは愛宕山あたごやまに、いずれも百八の松明たいまつをとぼして、思い思いの祈願をこめる。宿内では二組に分かれてのお日待ひまちも始まる。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
このあいだから丹波の一味をつれて、葛西領かさいりょう渋江しぶえの、まろうど大権現だいごんげんの寮へ、出養生でようじょうを名に出むいているけれど、またなにかよからぬたくらみをしているに相違ない——。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
(とろりと酔える目に、あなたに、きざはしなるお沢の姿を見る。あわただしくまうつむけに平伏ひれふす)ははッ、大権現だいごんげん様、御免なされ下さりませ、御免なされ下さりませ。霊験あらたか御姿おすがたに対し恐多おそれおおい。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この裏のかつ煙草たばこの富さんネ、渋江のほうに親類があって、ゆうべそっちへとまったところが、今朝の火事なんですと。まろうど大権現だいごんげんの森ン中の、不知火流の寮だそうですよ。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
秋田方面の山鬼ももとは山中の異人の汎称はんしょうであったらしいのが、のちには大平山上に常住する者のみをそういうことになり、ついには三吉大権現だいごんげんとも書いて、儼然げんぜんとして今はすでに神である。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
舳櫓ともろ船子ふなこは海上鎮護ちんごの神の御声みこえに気をふるい、やにわにをば立直して、曳々えいえい声をげてしければ、船は難無なんな風波ふうはしのぎて、今は我物なり、大権現だいごんげん冥護みょうごはあるぞ、と船子ふなこはたちまち力を得て
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)