夜凪よなぎ)” の例文
月もない夜凪よなぎの彼方へ、彼の持舟の帆は彼に代って、帝以下の運命をそれぞれな宿命の本土へいま送り返している。老人に若い者のような先行きの欲望はない。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
湾はその内そとに、さざじまの島影をいくつも重ね、夜凪よなぎのゆるい波が浦曲形うらわなりに白かった。そしてさっきからなぎさに待機していた人影もみな黙りこくって、遠くへ面をむけあっていた。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
表面は夜凪よなぎのとおり無事平穏に天神岸からともづなを解いた二百石船——淀の水勢に押されて川口までは櫓櫂ろかいなしだが、難波なにわ橋をくぐり堂島川どうじまがわを下って、いよいよ阿州屋敷の女松めまつ男松おまつ
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
船頭しぼりの水襦袢みずじゅばんをつけて帆役や荷方、水夫かこ楫主かんどりが、夜凪よなぎをのぞんでめいめいの部署に小気味よくクルクルと活躍しだす一方には、手形を持って便乗する商人あきゅうどだの、寺証てらしょうをたよりに乗る四国まい
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)