夕映ゆふばえ)” の例文
遙かかなた、夕映ゆふばえのなかに、何やら、ほつそりとした、暗いものの、立つてゐるのを。それは一個の半ば朽ちた圓柱だつた。
彼女はさういはれて包みきれないよろこびをほのかな夕映ゆふばえのやうに、その美しいまゆのほとりにたゞよはせた。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
平次と八五郎は、赤坂田町の坂田屋を引揚げて、虎の門の方へ、殘る夕映ゆふばえの中を歩いて居りました。
夕映ゆふばえの赤きところに、暗碧なる雲の浮べるをば、天人の居る山の松林ならんと思ひて、そこの谷かげには、美しき神の童あまた休みゐ、白き翼を扇の如くつかひて
しかし、人間の子が鰈の子になるのは、なかなかやすいことではない。やがて日が暮れて夕方がやつて来た。空が夕映ゆふばえ茜色あかねいろになり、空の茜が海にうつつて、海もあかくなつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
太陽が落ちてしまつても、夕映ゆふばえがある。残紅がある。余光がある。薄明がある。
接吻 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
明日の暑さで威嚇ゐかくする夕焼ではなく、明日の快晴を約束する夕映ゆふばえであつた。
と、貧しげな顎の下、夕映ゆふばえや、扁桃腺の色をして
魚市場さかないちば夕映ゆふばえが血なまぐさそに照るばかり
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
たまたま虹に夕映ゆふばえ
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
耀かがやきぬ雲の夕映ゆふばえ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
自棄やけ櫛卷くしまきにした多い毛にも、わざと白粉おしろいを嫌つた眞珠色の素顏にも、野暮を賣物にした木綿の單衣ひとへにも、つゝみ切れない魅力みりよくが、夕映ゆふばえと一緒に街中に擴がるやうな女でした。
わたつみに日は入りぬらむとおもほゆる夕映ゆふばえとほしこころにぞ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
飛騨ひだそらにあまつ日おちて夕映ゆふばえのしづかなるいろを月てらすなり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
夕映ゆふばえの赤きを見ればおほよそのものとしもなし山のうへにて
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)