呉服橋ごふくばし)” の例文
どうかして電車がしばらく来ない時には、河岸かし砂利置場じゃりおきばへはいっておほりの水をながめたり呉服橋ごふくばしを通る電車の倒影を見送ったりする。
丸善と三越 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
大𢌞おほまはりにはるけれど、呉服橋ごふくばししたちかところに、バラツクにんでひとだから、不斷ふだん落着家おちつきやさんだし、悠然いうぜんとして、やがてよう。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
朝になって横山参得さんとくを呼んだ。呉服橋ごふくばしに住む医者で、喜兵衛が癆痎になって以来のかかりつけだったが、診察をして帰るとき、送りに出たおしのにそっと首を振ってみせた。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
呉服橋ごふくばしではぬからずに手代の忠助をひっぱたいて、わたくしが毒を盛ったのでございますと泥を吐かしたそうな。……当節、番所は呉服橋だけにある。南じゃ朝っぱらから色ばなし。
顎十郎捕物帳:05 ねずみ (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
途中何やかやと話し合いながら呉服橋ごふくばしから蔵屋敷くらやしきを通って日本橋へ出た泰軒とお艶。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
室町むろまちから東京駅行きのバスに乗ったら、いつものように呉服橋ごふくばしを渡らずにほりばたに沿うて東京駅東口のほうへぶらりぶらりと運転して行く。
破片 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
んだらきこえさうですね。」「呉服橋ごふくばしうへあたりで、のゴーとやついてるかもれない。」「驛前えきまへのタクシイなら、品川しながはふかもれませんよ。」
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それと直交し弓なりに立って見える呉服橋ごふくばし通りの道路を、緑色の電車のほかに、白、赤、青、緑のバスが奇妙な甲虫コレオブテラのようにはい上りはいおり行きちがっている。
Liber Studiorum (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)