吹上ふきあげ)” の例文
そして終ひの五日間は、毎晩裾から吹上ふきあげる夜寒をこらへて、二時間も三時間も教壇に立つた為に風邪を引いて寝たのだといふ事であつた。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「やっとの事で、這い上がってみますと、そこは古びた一宇の堂内……吹上ふきあげの石神堂と同じように、やはり一個の石神がまつってあります」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この隠密の役目を勤めるのは、江戸城内にある吹上ふきあげの御庭番で、一代に一度このお役を勤めればいいことになっていました。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
落付おちつく場所は道庁のヒュッテ白銀荘はくぎんそうという小屋で、泥流でいりゅうコースの近く、吹上ふきあげ温泉からは五ちょうへだたっていない所である。
「春の末に代官町だいかんちょうの兵営の前を竹橋へ通ると、右手の吹上ふきあげの禁苑の中から、いつでも雉子の声が聞えていた」というし
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
白浦しらら吹上ふきあげ、和歌の浦、住吉、難波、など景勝の地に月を賞ずるものもあれば、尾上おのえの曙の月を惜しむものもいた。
あの倉沢の先の吹上ふきあげの水の出て居る処があるが、あそこで、石に腰を懸けて、もうこれで村に帰つて来るかうだかと思つた時は、情なくなつて涙が出て
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
或ひは源氏の大将の昔の路を忍びつつ、須磨すまより明石あかしの浦づたひ、淡路あはぢ迫門せとを押しわたり、絵島が磯の月を見る、或ひは白浦しろうら吹上ふきあげ、和歌の浦、住吉すみよし難波なには高砂たかさご
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
将軍家定は二日のよる吹上ふきあげの庭にある滝見茶屋たきみぢゃやに避難したが、本丸の破損が少かったので翌朝帰った。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ふところに押し隠し、吹上ふきあげの庭伝い、そっと坂下御門から出て神田紺屋町こうやまちのじぶんの家へ帰り、捨蔵と名をつけて丹精し、八歳の春、遠縁にあたる草津小野村万年寺の祐堂という和尚に、実を
顎十郎捕物帳:01 捨公方 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
淡白あはじろ吹上ふきあげの水のごと、空へ走りぬ。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
そこと知られぬ吹上ふきあげ
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
将軍家そぞろ歩きの折の休み茶屋である錦霜軒から、夜になると黒装束くろしょうぞくの影が二つ、船見山の蔭から吹上ふきあげの方へ出かけてゆく。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昨日吹上ふきあげの停車場をたつ時には、久しぶりで、さまざまの希望の念が胸にみなぎったのである。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
盡しけるとなり其後此一件落着のおもむき越前守殿より將軍家へ言上のみぎり後藤半四郎のうはさを申上られしかば其者の武藝ぶげいこゝろみんとの上意にて半四郎を吹上ふきあげ召出めしいだされ御旗本十八人まで劔術試合を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
淡白あはじろ吹上ふきあげの水のごと、空へ走りぬ。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
井戸掘り人足のたくさんはいっている吹上ふきあげの作事場とそことは、だいぶ離れているが、槐の木の下には、かねて奈良井の大蔵が手をまわして
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「行田から吹上ふきあげのほうが便利じゃないでしょうか」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
例のごとく、万太郎と金吾の二人が、吹上ふきあげ赤壁渓せきへきけいに沿うて、鵲橋かささぎばしとよぶ唐橋の手前へかかろうとすると、その橋上で動いてみえる人影がある。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それ程までに仰っしゃるなら、女の力でどうなるか存じませぬが、今日にも、吹上ふきあげのお数寄屋へお越しの節、そッと上様のお気色を伺ってみましょうわい」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きょうも秀忠は、野支度で、旧城の本丸から新城の工事場のほうへ吹上ふきあげの丘づたいに出て、作事場を一巡し、眼に耳に胸にひびいて高鳴る建設の騒音の中で時をわすれていた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
江戸城本丸の深苑しんえん吹上ふきあげの奥のお茶屋で、将軍吉宗は、紀州部屋住み時代からの側臣で、今も、お庭番の役名のもとに、股肱の者として召使い、時々、この場所だけで、またいつも必ず
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吉宗は、吹上ふきあげのお庭茶屋の内から、外の者を呼んだ。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)