厭世的えんせいてき)” の例文
詩人などには変に非現実的な詩をものしたり厭世的えんせいてきな詩を書いたりしているくせに、御当人の性癖は事務家よりも現実的な人が多いものだ。
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
厭世的えんせいてきな基調のうちに明るい諧謔かいぎゃくを交じえた『夢がたり』To, chevo ne bylo(八二年発表)は、この療養期の所産である。
それでいて少しも厭世的えんせいてきにならない男であった。むしろその反対に生活する事のできるために、嘘が必要になるのだぐらいに考える男であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
江戸一番の捕物の名人と言われているくせに、時々「人を縛らなければならぬ渡世」に愛想の尽きるほど、弱気で厭世的えんせいてきになる平次だったのです。
何となれば、あまりにこれらは厭世的えんせいてきである、あまりに詩的である。けれど、また、その力となるのも、知識の勝たない真情の発露によるからでもある。
単純な詩形を思う (新字新仮名) / 小川未明(著)
けれども僕はこの詩人のように厭世的えんせいてきではありません。河童たちの時々来てくれる限りは、——ああ、このことは忘れていました。あなたは僕の友だちだった裁判官のペップを覚えているでしょう。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それで何となく厭世的えんせいてきの考えが起ってきた。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
必竟ひっきょうは釣をしないからああいう風に厭世的えんせいてきになるのだと合点がてんして、むやみに弟を釣に引張り出そうとするのです。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれども飲めば飲めるたちでしたから、ただ量を頼みに心をつぶそうとつとめたのです。この浅薄せんぱくな方便はしばらくするうちに私をなお厭世的えんせいてきにしました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それにはKが父兄から勘当された結果厭世的えんせいてきな考えを起して自殺したと書いてあるのです。私は何にもいわずに、その新聞をたたんで友人の手に帰しました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私の気分は国を立つ時すでに厭世的えんせいてきになっていました。ひとは頼りにならないものだという観念が、その時骨の中までみ込んでしまったように思われたのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)