冥途よみ)” の例文
大地は、冷々ひえびえしていた。——ひょっとして、自分のあるいている今の闇が——あの世という冥途よみの国ではあるまいかなどと思った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ときまえには、佐久間大学、飯尾近江。今はまた、佐々、岩室、千秋なんど、信長の先駆けして、冥途よみの前触れに立ったるぞ。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
土地の四人の首を揃えての謝罪に目はしら立てておこる宋江でもない。むしろ仮死のお蔭で、冥途よみの世界をちょっとのぞいてきたと、宋江は笑うのである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうした空想の糸は限りもなく手繰たぐり出された。新九郎はやがてその空想に疲れて顔を上げると座敷の隅の短檠たんけいが、冥途よみあかりのように仄白ほのじろくなって行った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老先生の白いひげに、深夜の風が、冷々ひえびえとながれた。わが子を奪う冥途よみから洩れて来るような風である。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ハッと、ただ一つでも、弱い呼吸をつくか、心にゆるみが起れば、途端にそのかかと水苔みずごけの底を滑って永久に帰れない冥途よみの激流へ送り込まれてしまうかも知れないのである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)