仲々なかなか)” の例文
ところが仲々なかなか、お役人方やくにんがた苦心くしんは、新聞に出ているくらいのものではありませんでした。その研究中けんきゅうちゅうの一つのはなしです。
紫紺染について (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
おしゃれも仲々なかなかむずかしく、やけくそになって、ズボンの寝押しも怠り、靴も磨かず、胴乱どうらんをだらんとさげて、わざと猫背になって歩きました。
おしゃれ童子 (新字新仮名) / 太宰治(著)
之れも初めて神田小川町の、とある洋物店より我が撰目に入りて購ひ取られたる時は、目も鮮やかなるコゲ茶色の仲々なかなかに目ざましき一物なりき。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
電話機の具合が悪く、夜光虫、というのが仲々なかなか通じないらしかった。その声に混って、外の準士官等の、疲れたような口調くちょうの会話を耳にとめていた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
仲々なかなか佳い声で見物人はぼんやりと聞きとれていたが、その声は夜とともに濃く美しく近くなってくるのであった。
不思議な魚 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
それにしても、註文通りの場所を見つけるのには仲々なかなか骨が折れました。結局M駅の近くの崖を使うことに決心するまでには、十分一週間はかかりました。
赤い部屋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その養父というのが、仲々なかなか飲酒家のんだくれで、もとより資産の有る方ではないから、始終家産は左向ひだりむきであった。熊谷ではもしも養父が亡くなったら、相当な資産はるといっていた。
取り交ぜて (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
しばらくうとうとして、本当に眼が覚めたのは六時頃であったろう、山の朝は仲々なかなか寒い。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
えけ青大將あをだいしやうだから畜生ちきしやうちゞまつて屈曲えんぢぐんぢしたときかゝつて仲々なかなかいごかねえだ、それからうゝんとのばしちやこすつたな、さうしたらかたまりごりつ/\とこけんのれたつけな、さうしたらなあにけろりよ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
仲々なかなか親切だ。
浴槽 (新字新仮名) / 大坪砂男(著)
びっこで、はなくたの、薄気味悪いお客さまだ。しかし、仕立卸したておろしのあいトンビを初め、服装が仲々なかなか立派なので、少々片輪者でも、宿の者は鄭重ていちょうに取扱った。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「石になるとは。そいつはあんまりひどすぎる。おおい。梨の木。木のまんまでいいんだよ。けれども仲々なかなか人の命令めいれいをすなおに用いるやつらじゃないんです。」
チュウリップの幻術 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
午後も買物の追加やら、会員証に署名して貰ったり、手紙を書いたり、ホテルにあずけて置く荷物を作ったりして、仲々なかなか忙がしい、それでもどうやら片づいて、先ず明日は出発と話もきまった。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
それに私のは作り話でなく、身をもって経験した事柄なのだから、一層いっそう書きやすいと云うものだ、などと、たかをくくって、さて書き出して見た所が、仲々なかなかそんな楽なものでないことが分って来た。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
日がカンカンっていました。それでもどこかその光に青いあぶらつかれたようなものがありましたし、また、時々、つめたい風がひものようにどこからかながれては来ましたが、まだ仲々なかなかあついのでした。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
路は仲々なかなか悪いが、歩けそうもないところには、鉄棒があちこち、手がかりに挿してあるから、別に困るほどのこともないが、日がじりじり照りつけて、日影はさすがに涼しいが、登ってゆく間は
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
仲々なかなかず太ぃやづだ。ったら来ぅ。」
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「あいつは仲々なかなか気取きどってるな。」
耕耘部の時計 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)