今夜こよい)” の例文
「ええ、さて各自おのおのには、すでに御本望をお遂げなされたのでありまするか。それとも、また今夜こよいにも吉良邸へお討入りに相成りますかな。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
王さま、あちらにまいりましょう、今夜こよいは夢でございます、明日あすが待っております、明日あすになれば、夢が現実うつつとなりましょう。
ウスナの家 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
そこで僕は今夜こよいのような晩にひとり夜ふけてともしびに向かっているとこの生の孤立を感じてえ難いほどの哀情を催して来る。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「一風呂浴びて来て、飲み直しじゃ。今夜こよい徹宵てっしょうるも面白かろう。湯から上って来るまでに、娘を伴れてきておけ。湯壺へは、誰も来るでないぞ。」
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
されば余は、今夜こよいも、ここにあえて抗議する。たといあすからはこのカーマーゼンに一人の友人もなくなろうとも。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
いっ今夜こよいはこのままで」トおもう頃に漸く眼がしょぼついて来てあたまが乱れだして、今まで眼前に隠見ちらついていた母親の白髪首しらがくびまばら黒髯くろひげが生えて……課長の首になる
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
近ごろはとかく奥歯に物のはさまりしように、いつ帰りても機嫌よからぬ母の、今夜こよいは珍しくにこにこ顔を見せて、風呂ふろかせ、武男が好物の薩摩汁さつまじるなど自ら手をおろさぬばかり肝いりてすすめつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
十年互いに知りてついに路傍の石に置く露ほどの思いなく打ち過ぐるも人と人との交わりなり、今日きょう見て今夜こよい語り、その夜の夢に互いに行く末を契るも人と人との縁なり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
要こそあれと身を翻して、早くも洞中に潜むとともに、ともしびの主は間近に来りぬ。一個の婦人なり。予は燈影を見しはじめより、今夜こよい満願に当るべき咒詛主の、驚破すわや来ると思いしなりき。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
壁は白いが、真暗まっくらな中に居て、ただそればかりを力にした、玄関の遠あかり、車夫部屋の例のひそひそ声が、このもの音にハタとんだを、気の毒らしく思うまで、今夜こよいはそれが嬉しかった。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今夜こよいはあまりに寒ければ家に伴わんと思いはべり」
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)