丹花たんか)” の例文
丹花たんかの唇っていう奴をほんの僅かほころばせてよ、チラリと見せた上下の前歯、寝息さえ香ろうというものさ。
善悪両面鼠小僧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
むごらしき縄からげ、うしろの柱のそげ多きに手荒くくくし付け、薄汚なき手拭てぬぐい無遠慮に丹花たんかの唇をおおいし心無さ、元結もとゆい空にはじけて涙の雨の玉を貫く柳の髪うらみは長く垂れて顔にかゝり
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「ですかい、」と言いつつ一目ひとめ見たのは、かしら禿かむろあらわなるものではなく、日の光す紫のかげをめたおもかげは、几帳きちょうに宿る月の影、雲のびんずらかざしの星、丹花たんかの唇、芙蓉ふようまなじり、柳の腰を草にすがって
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「角が二本……雪のはだえにはみるみるうろこが生えて、丹花たんかの唇は耳まで裂けた」
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
仕込しこみの山杖、ヒュッと虚空へは抜けたが、白衣びゃくえ丹花たんかをちらしていた。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)