一足いっそく)” の例文
一足いっそく飛行靴とびぐつとあの人は言ったよ! もし彼がうっかりそんなものをこうものなら、彼のかかとがぽいと頭よりも高く飛び上ってしまうだろうに。
そこにはがいとうと、つえと、かさと、くつの上にはうわおいぐつが一足いっそく置いてありました。みるとふたりの婦人がつくえのまえにすわっていました。
この時の蟷螂君の表情がすこぶる興味を添える。おやと云う思い入れが充分ある。ところを一足いっそく飛びにきみうしろへ廻って今度は背面から君の羽根をかろく引きく。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕はいよいよ無気味になり、そっと椅子いすから立ち上がると、一足いっそく飛びに戸口へ飛び出そうとしました。ちょうどそこへ顔を出したのは幸いにも医者のチャックです。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
見合結婚をして、一人の男の経験が済むと、何か一足いっそくとびに違った世界に眼がとどいてゆく。良人の友達の中に、あるかなきかの恋情を寄せてみたりする場合もある。
恋愛の微醺 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
昨日も一日吹雪の中をあっちこっちとけ廻って歩くうち一足いっそくしかない足駄あしだの歯を折ってしまった事やら、ズブぬれにした足袋たびのまだ乾いていようはずもない事なぞを考え出して
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それは辻ヶ谷君にさようならをいってから、一足いっそくとびに早くも二十年後の世界へ来てしまっているのだ。したがって僕自身も、一足とびに二十年だけ年齢がふえてしまったのだ。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「きょう叔父が来て言った。嘘ではあるまい。ひと間住居などと騒いでいるうちに、一足いっそく飛びに地獄が来た。親類共も驚くのは無理がない。叔父はおれを手討ちにすると言ったよ」
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
素裸体すっぱだかのまま曲った足を突張って、一足いっそく飛びに入口の近くまで来た。それと同時に
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この人はいい人としか思えませんから、すぐさまニールスは一足いっそくとびにその手の上にとびあがりました。すると木の人はニールスを帽子ぼうしのところまでもちあげて、その中にいれました。
鎖縶さしつされて逍遙城しょうようじょうれらるゝや、一日いちじつ帝の之を熟視するにあう。高煦急に立って帝の不意にで、一足いっそくのばして帝をこうし地にばいせしむ。帝おおいに怒って力士に命じ、大銅缸だいどうこうもって之をおおわしむ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
きょうはわたしの誕生日たんじょうびなのですよ。それでそのお祝いに、ご主人からうわおいぐつを一足いっそくあずけられました。そしてそれを人間のなかまにやってくれというのです。
『君にも一足いっそく心がけておかなくちゃ、』とクイックシルヴァは答えました。
お葉さん、真実ほんとうだよ、決して嘘じゃアない。おら昨日きのう……いや、一昨日おととい……阿母おっかさんから大事の宝物の在所ありかを教わったんだ。それを持出もちだしてひとに売れば、一足いっそく飛びに大変な金持になれるんだ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ぜひ行きたいのです。三十年のながい間、ぼくは眠っていて、知識がうんとおくれているのです。ですからこんどは、今の世の中で、一番新しいものを見て一足いっそくとびに学者になりたいのです」
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)