一滴ひとしづく)” の例文
暫し、彼が顏をそむけたとき、私は一滴ひとしづくの涙が閉ぢたまぶたから流れて、男らしい頬に轉び落ちるのを見た。私の胸は迫つた。
生ける時は我ゆたかにわが望めるものをえたりしに、いまはあはれ水の一滴ひとしづくをねぎもとむ —六三
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
雪は活物いきたるものにあらざれどもへんずるところ活動はたらきの気あるゆゑに、六出りくしゆつしたるかたち陰中いんちゆう或はやうかたど円形まろきかたちしたるもあり。水は極陰ごくいんの物なれども一滴ひとしづくおとす時はかならず円形ゑんけいをなす。
するつもりだつたと思ふよ。長崎屋は下戸で酒は一滴ひとしづくも呑まないから、これは下手人にする
銭形平次捕物控:167 毒酒 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
お取にてととはれて老人一滴ひとしづくホロリとなみだこぼしながら初てあつた此方衆に話すもいと面伏おもぶせながら不※ふとした事から此樣に吾儕わしの家にて酒食しゆしよくするも何かの縁と思ふ故我身わがみはぢを包もせで話すを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あまりひどく悄氣しよげ込んでるので、もう二三こと云ふと涙が出さうです——それ、もうそこに、キラ/\光つて、濕つて、一滴ひとしづくまつげからこぼれて敷物の上に落ちた。