齷齪あくそく)” の例文
小事に齷齪あくそくしない手をこまぬいで、頭の奥で齷齪しているのである。外へ出さないだけが、普通よりひんが好いと云って僕は讃辞を呈したく思っている。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これ等のすこしく失へる者は喜び、彼等の多く失へるはいは憂ひ、又まれには全く失はざりし人の楽めるも、皆内には齷齪あくそくとして、てるはけじ、虧けるは盈たんと
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
なる程、人間が生きていたと云って、何も齷齪あくそくとして日記を附けて置かねばならないと云うものではあるまい。しかし日記に縛られずに何をするかが問題である。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
親の命令いひつけ通りに結婚して臺所にばかり齷齪あくそくしてゐる自分はあまり幸福しあはせではなさゝうだつた。
孫だち (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
「もっとも崇高なる天地間の活力現象に対して、雄大の気象きしょうを養って、齷齪あくそくたる塵事じんじを超越するんだ」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
寢たい時には寢て、起きたい時には起きて、北川のやうな機械的に時間に縛られて齷齪あくそくしなくつてもいゝのだから。……藝術家の不規則な生活くらしを責めるのは沒分曉漢わからずやよ。私始終さう思つてゐるの。
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
今代芸術きんだいげいじゅつの一大弊竇へいとうは、いわゆる文明の潮流が、いたずらに芸術の士を駆って、拘々くくとして随処に齷齪あくそくたらしむるにある。裸体画はその好例であろう。都会に芸妓げいぎと云うものがある。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)