黒天鵞絨くろびろうど)” の例文
黒天鵞絨くろびろうどの薄い小形の不断使いの座蒲団が順好くならんで、その間に煙草盆が、五歩に一楼十歩に一閣という塩梅式あんばいしきに置かれてある。
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
そうしていると、いつともなく日が暮れて、頭の上の小さな窓の外の、黒天鵞絨くろびろうどの空に、お伽噺とぎばなしの様な星がまたたいていたりした。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
白い真珠色の衣服きもの袖口そでくちには、広い黒天鵞絨くろびろうどのやうなものでふちが取つてあつて、頭にはあかい絹で飾りをつけてをりました。
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
かけ乘物のりものの上下にはしゆ爪折傘つまをりがさ二本を指掛さしかけ簑箱みのばこ一ツ虎皮の鞍覆たる引馬一疋へうの皮の鞍覆たる馬一疋黒天鵞絨くろびろうどに白く葵の紋を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
セエラは無心にほほえんでいる人形に、大型の黒天鵞絨くろびろうどの帽子をかぶせてやりながら、こういいました。
黒天鵞絨くろびろうど金糸きんし銀糸ぎんし鯨波げいはを刺繍したかみしもを着た美しい女の口上つかいが鯨の背に乗って口上をのべる。
着物はまたこの當時の型によつて、紫色の服地で出來てゐて、黒天鵞絨くろびろうどのスペイン風の飾りが目立つてゐた。金時計(時計はその當時現在ほど一般的ではなかつた)
黒天鵞絨くろびろうどのクションのまん中に美しい小さな勲章をのせたのをひもで肩からつり下げそれを胸の前に両手でささげながら白日の下を門から会堂までわずかな距離を歩いた。
B教授の死 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
父よりも母よりも、艶子さんよりも澄江さんよりも、家の六畳の間が恋しくなった。戸棚に這入はいってる更紗さらさの布団と、黒天鵞絨くろびろうど半襟はんえりの掛かった中形の掻捲かいまきが恋しくなった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
するとその外へ出た所を、追いすがるごとくさっと来て、おやと思う鼻の先へ一文字に舞い上ったのは、今度も黒天鵞絨くろびろうどの翅の上に、青い粉を刷いたような、一対の烏羽揚羽なのです。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
持せ陸尺ろくしやく十人駕籠かごの左右に諏訪右門すはうもん本多源右衞門高間たかま大膳同じく權内ごんない藤代要人ふぢしろかなめ遠藤東次右衞門等また金御紋きんごもん跡箱あとばこ二ツ簑箱みのばこ一ツ爪折傘つまをりがさには黒天鵞絨くろびろうどむらさき化粧紐けしやうひも
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
濃紫こむらさきの乘馬服を着、黒天鵞絨くろびろうどのアマゾン風の帽子を、頬に觸れ肩にたゞよふ房々とした捲毛の上に、形よく載せた彼女の姿よりも、もつと美しくみやびなものを、殆んど想像することが出來ない。
黒天鵞絨くろびろうどの古風な洋服を着た白髪しらがの老人が、窮屈きゅうくつそうに坐っていると
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
背景は一面の黒天鵞絨くろびろうど、舞台も客席も真暗になって、スポットライトの様な、青白い光線が、舞台の一箇所を僅かに照らしている中に、たった一つ、玉座の様に立派な椅子が置いてあるばかりだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)