風邪ふうじゃ)” の例文
風邪ふうじゃがやっとなおったばかりで、まだせきをして居る人の、訪問を受けたときなどは、自分の心持が暗くなった。
マスク (新字新仮名) / 菊池寛(著)
十右衛 わたくしは風邪ふうじゃで昼間から臥せって居りましたので、あの晩は芝居見物にも参りませんでしたが、あとでその話を聴きまして実にびっくり致しました。
勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
終吉さんは風邪ふうじゃが急にえぬので、わたくしと会見するにさきだって、渋江氏に関する数件を書いて送るといって、祖父の墓の所在、現存している親戚交互の関係
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そうして父の病状の思ったほど険悪でない事、この分なら当分安心な事、眩暈も嘔気はきけも皆無な事などを書き連ねた。最後に先生の風邪ふうじゃについても一言いちごんの見舞をけ加えた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
十九年の十一月頃、ふと風邪ふうじゃおかされ、漸次ぜんじ熱発はつねつはなはだしく、さては腸窒扶斯チブス病との診断にて、病監に移され、治療おこたりなかりしかど、熱気いよいよ強くすこぶ危篤きとくおちいりしかば
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
子の生長そだちにその身のおゆるを忘れて春を送り秋を迎える内、文三の十四という春、まちに待た卒業も首尾よく済だのでヤレ嬉しやという間もなく、父親は不図感染した風邪ふうじゃから余病を引出し
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
一時は満員の姿となり、ありし昔の家風を復して、再び純潔なる生活を送りたりしにさても人の世のたてさよ、明治二十五年の冬父上風邪ふうじゃ心地ここちにて仮りのとこし給えるに
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
静かな境内けいだいの入口に立った彼は、始めて風邪ふうじゃを意識する場合に似た一種の悪寒さむけを催した。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたくしはすぐに終吉さんに手紙を出して、何時いつ何処どこへ往ったらわれようかと問うた。返事は直に来た。今風邪ふうじゃで寝ているが、なおったらこっちから往ってもいというのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「夜来風邪ふうじゃの気味、発熱。診察を受けず、例のごとく勤務」と云うのがある。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)