音訪おとな)” の例文
さびしい一室ひとまに、ひとり革鞄かばんにらめくらをした沢は、しきり音訪おとなふ、さっ……颯と云ふ秋風あきかぜそぞ可懐なつかしさに、窓をける、とひややかな峰がひたいを圧した。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
音訪おとなう者あり。聞覚えのある声はそれ、とお録内より戸を開けば、おもてよりずっと入るは下男を連れたる紳士なりけり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
音訪おとなう処へ、新聞配達、牛乳配達、往来を掃きに出でたるむかい親仁おやじ、隣の小僧、これを見付けて寄集り、「なるほどこれじゃ、道理で恐しく犬が吠えた。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
音訪おとなう間も無く、どたんと畳をて立つ音して、戸を開けるのと、ついそのかまち真赤まっかな灯の、ほやの油煙に黒ずんだ小洋燈こランプの見ゆるが同時で、ぬいと立ったは、眉の迫った、目の鋭い、細面ほそおもて壮佼わかもの
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)