雰囲気ふんゐき)” の例文
旧字:雰圍氣
(かう云ふ名称の存在するのは、同時に又かう云ふ名称を生んだ或雰囲気ふんゐきの存在するのは世界中に日本だけであらう。)
髪の形、頬紅やアイシャドウの使ひ方なども教はつて、うにか女給タイプにはなつて来たのだつたが、どこか此処の雰囲気ふんゐきに折り合ひかねるところもあつた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
依然として雰囲気ふんゐきの無い処で、高圧の下に働く潜水夫のやうにあへぎ苦んでゐる。雰囲気の無い証拠には、まだ Forschungフオルシユング といふ日本語も出来てゐない。
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
何だかいつもと違つた雰囲気ふんゐきの中へ、一人で飛び込んだやうな気さへした。いつもは連中の顔さへ見れば、おのづから機智がほどけて来る唇さへ、何となく閉ざされてあつた。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
その筆でもつて争乱の北京見聞記を書くのだ。北京ぢゆうをまめに歩くのだよ。雰囲気ふんゐきをつかむのだよ。出発までに調査部でもつて、必要なあらゆる智識を復習して行きたまへ。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
「いや、富岡さんの素早いのには驚いた。寝てる間に幸田君とマンキンへ行くなンざア、よろしくありませんよ。女つてものは、瞬間の雰囲気ふんゐきが勝負なンだから、いかに毒舌家の富岡さんでも信用はならない」
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
幻影イリユージヨンの消え失せた雰囲気ふんゐきくらい緑に
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
死骸を棺にをさめる時、部屋の雰囲気ふんゐきが又一層切実になつて来た。歔欷すゝりなきの声が起つた。
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
東洋には自然科学を育てて行く雰囲気ふんゐきは無いのだと宣告した。果してさうなら、帝国大学も、伝染病研究所も、永遠に欧羅巴ヨオロツパの学術の結論丈を取りぐ場所たるに過ぎない筈である。
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
実際身綺麗な夫の姿は、そう云ふ人中に交つてゐると、帽子からも、背広からも、或は又赤皮の編上げからも、化粧石鹸の匂に似た、一種清新な雰囲気ふんゐきを放散させてゐるやうであつた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)