附着くっつ)” の例文
長「それ見ろ、お父様とっさま御覧遊ばせ、此の通りだ粘りが有ります此の糊で附着くっつけてごまかそうとは太い奴では有りませんか」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
多分そのうち七歳ななつになる男のがあったが、それの行為しわざだろうと、ある時その児を紐で、母親に附着くっつけておいたそうだけれども、悪戯いたずらは依然止まぬ。
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ああいう人たちのはく下駄げたは大抵籐表とうおもて駒下駄こまげたか知ら。後がへって郡部の赤土が附着くっついていないといけまいね。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
右の手首は、車輪に附着くっついて行ったものか見当らず、プッツリと切断された傷口から、鮮血がドクリドクリとほとばしり出て、線路の横に茂り合ったよもぎの葉を染めている。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
大きなおそなえに小さいおそなえ附着くっついてヤッサモッサを始める段になると、もう気が逆上うわずッて了い、丸呑まるのみにさせられたギゴチない定義や定理が、頭の中でしゃちこばって
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「そんな事が有りようが無いじゃないか——仏壇を片付けていたら、手へ血が附着くっついたなんて」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これは眼の処へ透明すきとおったドロドロのようなものが附着くっついていてそれが黄身の白いひもと連結してあります。エ、分りませんか。どんな玉子でもこの通りに黄身の両端から白い筋が出ていましょう。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
又は林の木の枝がお互同志に一本でも附着くっつき合ったり、押し合ったりしているものはなく、皆お互に相談をして譲り合ったかのように、程よく隔たりを置いているのも
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
着る物も貴方あんたの傍を離れねえから、何うか着てくんろとおらア身体へ附着くっついて離れねえというから、そんなら着てやろう、喰ってやろうと云うのだ、これは求めずして天より授かる衣食というものよ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その間から顔を出す石南木しゃくなぎなぞを見ると、葉は寒そうにべたりと垂れ、強いつぼみだけは大きく堅く附着くっついている。冬籠りする土の中の虫同様に、寒気の強い晩なぞは、私達の身体も縮こまって了う……
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
志免刑事はよくこんな些細な事を記憶している男で、岩形氏の靴に赤い泥が附着くっついているところを見ると、氏は昨夜ゆうべたしかにこのカフェーに這入ったに相違ないのである。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)