閉場はね)” の例文
いろんないきさつがあって、やがて閉場はねると、その子供は、是非日本の写真が見たいから、ホテル迄送ってゆくということになった。
時計 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
するのも可哀そうだから、もうちっと待っていると日が暮れるだろう。小屋の閉場はねるのを待っていて、すぐに河童をあげるようにしろ
半七捕物帳:19 お照の父 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ところが、その翌日、前夜のうち逢痴に対する令状が発行されたとみえ、閉場はねを待つ私服の群が、観衆の中で鋭い眼を光らせていた。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
『やあ! 染之助さん、芝居の方はもう閉場はねましたかい』と、云うじゃないか。私は身も世もないように失望してしまいました。
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
雪之丞は、否やなく、閉場はねをまちかねて、かごに揺られて、例の根岸の、ひっそりした鶯春亭おうしゅんていの奥座敷に、広海屋の席へ出た。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
閉場はねると席亭が景気をつけるようにこう言って、楽屋へ真っ黒な顔を覗かせた。尻っ弾ねとは日一日、あとへゆくほどお客の増えてくることだった。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
盛況の第一じつ閉場はねると、急にひっそりして仕舞った小屋の中に、親方の珍らしくご機嫌のよい笑声が、久しぶりに廻って来た春のように、響いた。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
劇場地のストランドも、裏へ出ると、さすがに芝居の閉場はねる前は寂蓼を極めていた。薄霧のかかった空には、豆ランプのホヤを被せたような星が、朧に光っていた。
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
お文と源太郎とが、其の小料理屋を出た時は、夜半よなかを餘程過ぎてゐた。寄席は疾くに閉場はねて、狹い路次も晝間からの疲勞をやすめてゐるやうに、ひつそりしてゐた。
鱧の皮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
或者は、彼が閉場はねたのちの水族館の樂屋口の前に一人でぢつと佇んでゐるのを見かけたと言つた。
水族館 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
劇場が閉場はねた後は、銀座裏のプランタンへ集つて無駄話に時を過した。
永井荷風といふ男 (旧字旧仮名) / 生田葵山(著)
いまに活動や芝居がはねて、群衆が新世界からドッと流れだしたときには、警官隊はどうしてそのおびただしい人間の首実検をするのであろうか。恐らく蠅男は、その閉場はねの時刻を待っているのであろう。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
湯島境内けいだいの出逢い茶屋で、閉場はねてから逢おうといってくれたと聴いて、恋には、前後の差別もなく、カーッと胸をおどらせてしまった彼女であった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それが、毎日四時の閉場はねになると、一番下になってしまって、寛永寺の森の中に隠されてしまうのだよ。いいからそれを、私は閉会らくの日まで買い切るからね。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
お文と源太郎とが、其の小料理屋を出た時は、夜半よなかを余程過ぎてゐた。寄席よせくに閉場はねて、狭い路次も昼間からの疲労をやすめてゐるやうに、ひつそりしてゐた。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
そこで、閉場はねになると、場内の客が一度にどやどやと出て来る。それに対して、提灯の火を一々にけて渡すのであるから、下足番は非常に忙がしい。雨天の節には傘もある。
寄席と芝居と (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は楽屋口の閉場はね時の、混乱した群衆の中に、連隊副官のダシコフ大尉の蒼白な頬と、燃ゆるような二つの瞳とを見出したのである。イワノウィッチは怖ろしいものを見たように、顔をそむけた。
勲章を貰う話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
これから芝居の閉場はねる前頃を頂上として、それまでの一戰と、お文は立つて帶を締め直したが、時々は背後を振り向いて、手紙を讀んでゐる叔父の氣色を窺はうとした。
鱧の皮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
田舎の芝居は閉場はねが遅いので、自分の役をすまして宿へ帰ったのは夜の九つ過ぎ、今の十二時過ぎでしたろう。帰ると、宿の店口には大きな男が三人ばかり、たばこをのんで待っていました。
子供役者の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おや、もう、閉場はねるようだが——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
これから芝居の閉場はねる前頃を頂上として、それまでの一戦と、お文は立つて帯を締め直したが、時々は背後を振り向いて、手紙を読んでゐる叔父の気色をうかゞはうとした。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
ここらの宮芝居は明るいうちに閉場はねることになっている。
半七捕物帳:54 唐人飴 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)