鉄漿はぐろ)” の例文
旧字:鐵漿
「お喜乃さんなら、天王寺裏のお鉄漿はぐろ長屋に住んでいる、感心な娘さんだ。何でも親父さんは、御浪人だということを聞いていました」
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこがほらのように見えたというのも、あるいは歯抜けの扮装術(「苅萱桑門筑紫蝶」その他の扮装にあり)そのままに、鉄漿はぐろくろみが
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
神職 鏡——うむ、鉄輪かなわ——うむ、蝋燭ろうそく——化粧道具、べに白粉おしろい。おお、お鉄漿はぐろ可厭いやなにおいじゃ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
婆アもお鉄漿はぐろを附けるやら大変です、わたくし最早もはや五十五歳ゆえ早く養子をして楽がしたいものですから、誠に耻入った次第でございますが、早速さっそくのお聞済きゝずみ、誠に有難う存じます
入歯をとったあとの、歯齦がお鉄漿はぐろのようにみえ、結ぶと、口からうえがくしゃくしゃに縮まり、顔の尺に提燈が畳まれてゆく。
方子と末起 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そして、臙脂皿べにざらくちると、お鉄漿はぐろ光りの歯の前に、年増ざかりの肉感の灯が赤くともされたように見えた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あまりに鉄漿はぐろをつけた時江が、十四郎そのものであり(以下二三七字削除)現在の十四郎には生存を拒まねばならない——その物狂わしさは、倒錯などというよりも
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
鉄漿はぐろ長屋というのを聞いてその路地をのぞいてから、少し、酔がさめ加減だった。
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それで思いついたのを、なんとお考えになります? それが、実は、鉄漿はぐろなのでございます。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
見ておくんなさい。——烏爪からすづめだ、あっしの妹のお半と同じだ。お半の小指の爪も、お鉄漿はぐろを染めたようにまっ黒なんで、奇妙な生れつきだと思っていたら、この女にも、同じ爪がある
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そのご系図に書いてあるのを見ますると、四名のお孫様は、みな女性にょしょうでござりました。そして、ご姉妹きょうだいの年順に、まだ乳呑児のうちに、左の指の爪へ、うるしのごとく、お鉄漿はぐろ入墨いれずみをなされました」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)