野猪しし)” の例文
冬向は一切浴客よっかくはありませんで、野猪しし、狼、猿のたぐいさぎしん雁九郎かりくろうなどと云う珍客に明け渡して、旅籠屋は泊の町へ引上げるくらい。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
家猪ぶた野猪しし、野獸を甚だ稀に且つ竊に食ひ、しやも、かしはの鍋屋さへ甚だ少かりしほど肉食をなすこと稀なりしに引替へて
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
獲物の野猪ししは、日暮にちぼくろずんだ肢体をなほ逞ましく横たへてゐた。その下で、流れ出る血が泥に吸はれてゐた。ふと、私は促されるやうに背後を顧みた。そして私は総てを了解した!
測量船 (新字旧仮名) / 三好達治(著)