跪坐しゃが)” の例文
青い火や赤い火の流れている広告塔の前に立って、しっとりした夜の空気によみがえったとき、お島はそこに跪坐しゃがんでいる小野田を促した。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
猟師に追詰められた兎かなんぞのように、山裾の谿川たにがわの岸の草原に跪坐しゃがんでいる、彼女の姿の発見されたのは、それから大分たってからであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
庸三は苦笑したが、その時年少詩人の史朗がひょいと車の側へ出て来たので、彼はあっと思って後ろへ跪坐しゃがんでしまった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
第一親にもめったにえないんだもの。私も心配になって、実は少し悲しくなって来たのよ。独りでお庭へ出て、石橋のうえに跪坐しゃがんで、涙ぐんでいたの。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「貧乏くさい商売だね」お島は自分のちいさい時分から居ずわりになっている男に声かけた。その男は楮の煮らるる釜の下の火を見ながら、跪坐しゃがんでたばこっていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「これから夏になると、それあ月がいいですぜ」桂三郎はそう言って叢のなかへ入って跪坐しゃがんだ。
蒼白い月 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼女はひいひい火焔かえんのような息をはずませていたが、痛みが堪えがたくなると、いきなりねあがるように起き直った。それでいけなくなると、蚊帳かやから出て、縁側に立ったり跪坐しゃがんだりした。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)