袿衣うちぎ)” の例文
彼女は指を袿衣うちぎの袖にかくしてそっと顔の濡れをたたいた。澄みきった女の覚悟を姿に描いて退がりかける容子である。後醍醐は、狼狽ろうばいされた。
さきに登子を乗せ、高氏もすぐあぶみを踏む。登子は、かいどりを被衣かつぎにした。袿衣うちぎなので、横乗りに、自然、鞍つぼの良人に甘えたような姿態しなになる。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
将門は、彼女の袿衣うちぎの襟あしから、久しくわすれていた都人の白粉の香を嗅ぎとって、何もかも、忘れていた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
縁の上からまろび落ちた泰子は、紅梅の袿衣うちぎや、白、青のかさね衣も、またその黒髪もふり乱して、大地にうつぶし、どうかしたのか、そのまま起きもしないのである。
たった今まで、召使に交って、厨の内で、煮焚にたきや水仕みずしをしていたことは事実であろう。常の袿衣うちぎを、やや裾高すそだかにくくし、白と紫のひもを、もすそに連れて垂れていた。
例によって、高価な白粉おしろいを、惜気もなく厚く用い、髪には、香料をしのばせ、まゆを、ぼうと描いて、袿衣うちぎも二十歳台の女性が着るような、あでやかなのを、着すべらせている。
そして袿衣うちぎかさねを、与えたので、居合せた皇子や朝臣たちも、思い思いに、物を与え
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)