行末ゆくえ)” の例文
女は苦しい様子もなく、笑いながら、うたいながら、行末ゆくえも知らず流れを下る。余は竿をかついで、おおいおおいと呼ぶ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
渦捲うずまいて去る水の、岩に裂かれたる向うは見えず。けずられて坂と落つる川底の深さは幾段か、乗る人のこなたよりは不可思議の波の行末ゆくえである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鬼の出る羅生門らしょうもんに、鬼が来ずなってから、門もいつの代にか取りこぼたれた。つなぎとった腕の行末ゆくえは誰にも分からぬ。ただ昔しながらの春雨はるさめが降る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
爺さんは貝の行末ゆくえを考うる暇さえなく、ただむなしき殻を陽炎かげろうの上へほうり出す。れのざるにはささうべき底なくして、彼れの春の日は無尽蔵に長閑のどかと見える。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)