蠑螺さざえ)” の例文
これからが髑髏洞カタコンブの奥の院である。門をはひつて右に折れるとほらの屈曲は蠑螺さざえ貝の底の様に急に成り、初めて髑髏どくろの祭壇が見られる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
また小あきんどが露店をならべて蠑螺さざえの壺焼や、はじけ豆や、蜜柑水や、季節になれば唐もろこし、焼栗、椎の実などもうる。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
箱根竹をためて円蓋を作り、そのしほんに梯子段を持たせて、いつぞやお話した百観音の蠑螺さざえ堂のぐるぐると廻って階段を上る行き方を参考としまして
その盤台のかげの方に大きい蠑螺さざえや赤貝のからが幾つもころがっているのが、彼の眼についた。
半七捕物帳:13 弁天娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お綱よ、命だけは助けてくれ! 死ぬのは怖い! 禅僧の声は遠雷のように喉の奥でゴロゴロ鳴り、くいついた蠑螺さざえのようにお綱のすねにぶらさがって恐怖のあまり泣きだしていた。
禅僧 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
張子のとらや起きあがり法師を売っていたり、おこしやぶっ切りあめひさいでいたりした。蠑螺さざえはまぐりなども目についた。山門の上には馬鹿囃ばかばやしの音が聞えて、境内にも雑多の店が居並んでいた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼は肴屋さかなや蠑螺さざえ一籠ひとかごあつらえ、銀子を促した。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)