芭蕉布ばしょうふ)” の例文
寝床の敷いてある六畳の方になると、東側に六尺の袋戸棚ふくろとだながあって、そのわき芭蕉布ばしょうふふすまですぐ隣へ往来ゆきかよいができるようになっている。
変な音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうしてその間に錯雑はなく、全体の統一が破れた場合はない。素地は木綿、絹、麻、芭蕉布ばしょうふ等さまざまである。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
黄色い芭蕉布ばしょうふすすけた紙の上下うえしたをたち切った中に、細い字で「赤き実とみてよる鳥や冬椿」とかいてある。小さな青磁の香炉が煙も立てずにひっそりと、紫檀の台にのっているのも冬めかしい。
老年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
スラスラと畳の上を渡って、芭蕉布ばしょうふ張りのふすまに手をかけた。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
芭蕉布ばしょうふふすまを開けると、押入の上段は夜具、下には柳行李やなぎこうりが見える。小野さんは行李の上に畳んである背広せびろを出して手早く着換きかえ終る。帽子は壁にぬしを待つ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今も沢山織っているもので、おそらく一番美しいのは芭蕉布ばしょうふでありましょう。芭蕉から糸を取ってはたにかけます。沖縄の夏は暑いので涼しいこの布が悦ばれます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
へだてふすまだけは明けてある。片輪車の友禅ゆうぜんすそだけが見える。あとは芭蕉布ばしょうふ唐紙からかみで万事を隠す。幽冥ゆうめいを仕切るふちは黒である。一寸幅に鴨居かもいから敷居しきいまで真直まっすぐに貫いている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見事な芭蕉布ばしょうふが今も庶民の着物として作られているのは力強い限りであります。
沖縄の思い出 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)