綿入羽織わたいればおり)” の例文
黒一楽くろいちらく三紋みつもん付けたる綿入羽織わたいればおり衣紋えもんを直して、彼は機嫌きげん好く火鉢ひばちそばに歩み寄る時、直道はやうやおもてげて礼をせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かきおほせの如く此後は決して立寄たちよるまじとかたく約束なし猶又綿入羽織わたいればおり一ツを貰ひ夫より本所柳原町なる舂屋權兵衞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そういう晩には綿入羽織わたいればおりをすっぽり頭からかぶって、その下から口笛と共に白い蒸気を吹出しながら、なるべく脇目をしないようにして家路を急いだものである。
追憶の冬夜 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかし私はやがてこの暗い夜、この悲しい夜の一夜いちやごとに、鳴きしきる虫の叫びの次第に力なく弱って行くのを知りました。私はいつかあわせの上に新しい綿入羽織わたいればおりを着ています。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おれはあっちの綿入羽織わたいればおりを着て行こうか、少し寒いようだねと、旦那がまた云い出すと、およしなさいよ、見っともない、一つものばかり着てと、御作さんはかすりの綿入羽織を出さなかった。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)