突忽とっこつ)” の例文
さもなければ、以後の北条幕府下に、これだけの地盤を、突忽とっこつとして、斬り取りしたり、他国から割り込んだりすることは出来ッこない。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
渓流と翠巒すいらんの相せまった突忽とっこつとした風景がどんなに私を喜ばせたか。そして盆踊の雄大おおしさには私は肝さえ潰したのである。
温室の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこへ、一条の泡がスウッと立ち上っていったのだが、それが水面で砕けたと思えば、突忽とっこつとして現われたのは何あろう、現在のあたり見る鬼蓮おにばすなのである。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
何事かと疑っているうちに、後宮の碧門へきもんを排し、突忽とっこつとして姿を現した曹操と武士たちが、玉廊を渡ってこれへ馳けてきた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど余りにも、優しかった兄、弟思いな兄、また力とたのんでいた兄に、突忽とっこつと、うつし世の姿を眼の前から掻消かきけされてしまったので、多感な謙三郎は
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ときに、高い木履ぽくりをはいて、藤の花を冠にさした乞食のような老人が、場所もあろうに、宴の中へ突忽とっこつとして立ち
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とは云い合ったものの、時めく、大坂城の秀吉が、何の予告もなく、突忽とっこつとして、越後の一城下へやって来るなど、余りにも、信じられない気がしたものらしい。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
百七十里彼方の江戸表で、突忽とっこつとして、地殻の一部面が崩れたと思うと、もうその波及は、江戸表以上の狂相をあらわして、赤穂の大地へ湧き上がってきたのであった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、疑っているらしく、夜半までなんの行動にも出て来なかったが、雨の小やみになった明けがた近く、突忽とっこつとして、一隊の兵馬が、濠橋ほりばしを渡って、洛外に逃げていった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
突忽とっこつとして現われはしまいかと、とにかく今や彼の気くばりにも寸分の休みはなかった。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、長い堤の蔭から、突忽とっこつとしてつづみの声、銅鑼どらのひびき、天地を震わせ
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不寝ねずの番をしていた徐晃じょこう張遼ちょうりょうの二将が、すぐ本陣から様子を見に駆けだしてみると、呉の船団が、突忽とっこつと、夜靄を破って現れ、今し水寨へ迫ってきた——とのことに、張遼、徐晃は驚いて
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
突忽とっこつとして、その前へ
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)