硝子越ガラスご)” の例文
彼はちょっとためらったのち、隣り合った鳥類ちょうるいの標本室へはいった。カナリヤ、錦鶏鳥きんけいちょう蜂雀はちすずめ、——美しい大小の剥製はくせいの鳥は硝子越ガラスごしに彼を眺めている。
早春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
圭さんはへそを洗うのをやめて、湯槽のふちひじをかけて漫然まんぜんと、硝子越ガラスごしに外を眺めている。碌さんは首だけ湯にかって、相手の臍から上を見上げた。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
アンディーヴの戻茎の群れは白磁の鉢の中に在って油の照りが行亙り、硝子越ガラスごしの日ざしを鋭くね上げた。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「いゝ晩ですこと。」と硝子越ガラスごしに見ながら、彼女は云つた。「星は光つてゐないやうですけれど。ロチスターさんは、どうやらいゝ旅行をなさいましたでせうよ。」
障子の硝子越ガラスごしに、もちの樹が見え、その樹の上の空に青白い雲がただよっているらしいことが光線の具合で感じられる。冷え冷えとして、今にも時雨しぐれが降りだしそうな時刻であった。
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
持ち主の知合いに頼まれて、去年の冬から住むことになったその家は、蔵までついていてかなり手広であった。薄日のさした庭の山茶花さざんかこずえに、小禽ことりの動く影などが、障子の硝子越ガラスごしに見えた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そういって硝子越ガラスごしに、暗い外を透してみていた教授は、何におどろいたか
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)