矢声やごえ)” の例文
旧字:矢聲
人には遠く離れた広間の真中に、しんとして寝ているような心持である。表の通りでは砂利をかんで勢いよく駈ける人車じんしゃ矢声やごえも聞える。
枯菊の影 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
矢声やごえを懸けて、しおを射てけるがごとく、水の声が聞きなさるる。と見ると、竜宮の松火たいまつともしたように、彼の身体からだがどんよりと光を放った。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かれは矢声やごえをはなって輪を投げた、輪はくるくると旋回せんかいして棒の頭にはまらんとしてかすかにさすったまま地上に落ちた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
わッと言う矢声やごえもろ共、ひしめきわめきながら殺到すると、押しのけはねのけ、揉み合いへし合いながら、われ先にと小判の道へ雪崩なだれかかりました。
二葉亭の文学というは満身に力瘤ちからこぶを入れて大上段おおじょうだんに振りかぶる真剣勝負であって、矢声やごえばかりをさかんにする小手先こてさき剣術の見せ物試合でなかったから
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
山尾と右門はそれを聞くと、さては由緒よしある武士もののふ隠遁所かくれずまいででもあるのだろうと、忽ち、勇気を振り起こし、灯火を目差して進む時、鋭い矢声やごえ発止はっしと掛かり、ひょうと飛び来る白羽の矢。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ここに、最後の勝敗しょうはいをけっする、騎馬きば徒歩かち遠駆とおがけの試合しあい矢声やごえはかけられた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「や、」と倒れながら、激しい矢声やごえを、掛けるが響くと、宙でめて、とんぼを切って、ひらりとかえった。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)