発作的ほっさてき)” の例文
旧字:發作的
そして疲れはてては咽喉のどや胸腹に刃物を当てる発作的ほっさてきな恐怖におののきながら、夜明けごろから気色の悪い次ぎの睡りに落ちこんだ。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
暮に犬に死なれて以来、ただでさえ浮かない彼女の心は、ややともすると発作的ほっさてきな憂鬱に襲われ易かった。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わたしは、冷静で自制力の強い父が、時々発作的ほっさてき狂暴きょうぼうさを見せることは知っていたが、それにしても今しがた見た光景は、なんとしても合点がてんがゆかなかった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
発作的ほっさてきに、彦太は、帳場の中から突っ立ったりする事があった。だが、この紛雑ふんざつした世相のどこへ一体自分を投げこんだら正しいのか、彦太には、見当がつかない。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
過去をかえりみる涙はおさえやすい。卒然として未来におけるわが運命を自覚した時の涙は発作的ほっさてきに来る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
妓は顔をあげて、発作的ほっさてきにわらい出した。しかしすぐ笑うのを止めて、私の顔をじっと見つめた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
それが発作的ほっさてきに狂乱のようになる。成程、マダム丸尾の方が若い丈けに目を惹くと言った。それは丸尾家が吉川君の借家へ越して来てから間もないことだったように覚えている。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ごくまれに、父は発作的ほっさてきにわたしに好意を示しはしたが、それは決して、口にこそ出さないが一目でそれと察せられる私の哀願あいがんによって、ひき起されたものではない。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
話しているうちに神主かんぬし長谷川右近はせがわうこんの顔が、発作的ほっさてきな病気でもおこしたように、ワナワナとくちびるをふるわせて、まったく土気色つちけいろになってしまった。——ときゅうをたって
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
発作的ほっさてきに笑い出しながら)玉造たまつくり小町こまちと云う人がいます。あの人を代りにつれて行って下さい。
二人小町 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
たまたま吾妻橋あずまばしを通り掛って身投げの芸を仕損じた事はあるが、これも熱誠なる青年に有りがちの発作的ほっさてき所為しょいごうも彼が智識の問屋とんやたるにわずらいを及ぼすほどの出来事ではない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一杯やると発作的ほっさてきに催す。遠く王政維新おうせいいしん廃藩置県はいはんちけんの頃にさかのぼって
小問題大問題 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
吾の人を人と思うとき、ひとの吾を吾と思わぬ時、不平家は発作的ほっさてき天降あまくだる。此発作的活動を名づけて革命という。革命は不平家の所為にあらず。権貴栄達の士が好んで産する所なり。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしまだそのほかにも何か発作的ほっさてきに制作慾の高まり出したのも確かだった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)